満足度★★★★★
一台のスマートフォン。そこに録音された音声を男が再生する。どうやらある会議の席上のようだ。
聴こえてくる声の主は、ゴミの島に捨てられた少年。「旧・希望の島」あるいは「絶望の島」と呼ばれるそこは、合法非合法の廃棄物におおわれた場所であった。
捨てられ、傷つき、飢えた少年の生きるための戦いが始まる。
スマートフォンに残された彼の声は、過酷な生と痛みをありありと描き出していく。
語られる出来事は無惨だけれど、舞台上での描き方はむしろ抑制が効いている。血糊が飛び散ったりしないし、たくさんの布が重なり合う美術はどこか寓話めいているし、照明も音響もむやみに感情を煽るものではない。
なのに、少年の言葉はあまりにも生々しく響いてくる。
会議室でその声を聴く人々の冷めた会話。聴かせる男の目的と作為。それらのざわつく肌触りと、少年の発する言葉のギャップにも揺さぶられる。
観ているうちに、ある場面で突然気分が悪くなった。目の前が暗くなり冷や汗が吹き出す。
精神の緊張がこんなにストレートに身体の反応を呼び覚ますなんて、自分にとっては初めてのことだった。
舞台上で起きている出来事そのものより、劇中の彼の孤独が、そして予想される行為のもたらす痛みが胸を締めつける。
席を立つ……という選択肢が一瞬頭をよぎったが、続きが恐ろしいのと同じくらいその先が気になって立ち上がることもできない。
彼の語る記憶は、過酷さを増しつつ、ひとつの出逢いを境にその性質を変えていく。
ニイナという少女。目の見えない彼女を、少年は守ろうとする。
それまでの彼の生と、彼女と出会ってからの日々は、まったく別のものとなっていた。
もう、孤独ではない。
少年を呼ぶ彼女の声、共に生きようとする彼女の意志、彼女の弾くピアノの音。
飢餓も痛みも耐えられる。彼女さえここにいてくれたら。
もっと惨い展開はいくらも考え得るだろう。けれどそういう道を選ばなかった少年の、想像を絶する痛みの向こうにある種の甘やかな想いがある。それを愛と呼ぶにはあまりに切実すぎるけれど。
わずか85分の中に、切り取られ鮮やかに浮かび上がるひとつの生命。ひとつの世界。言葉にできない確かなものを受け取った気がした。