満足度★★★★
女性2人の魅力的なダンスから、物語は始まった。
客を送り出した風俗嬢が控え室で次の客を待とうとしているとき、後輩の女の子が助けを求めてくる。壁の向こうの人と恋に落ちて、店の金を持って逃げようとしているらしい。
壁によって西東に分断された近未来の日本……という設定について、劇中ではあまり説明はなくて、観客は物語の中でしだいに様子をつかんでいくこととなる。
『めごとの天使たちは』では、壁のある世界を背景にした古典的な「許されざる恋人たち」の物語を、2人の女性によるチャーミングな会話劇として描いていく。逃げ出そうとしているすみれの無邪気な一途さと、彼女の話を聴く姐御肌のれいかの男前な魅力が、観る者を物語に引き込んでいった。
続く『誰がために壁はある』では、不条理劇めいた会話を牽引する奇妙な男と、広場に来た男の語る恋の顛末が、「壁」に閉ざされた閉鎖的な社会の終焉と結びついていく。男1を演じる古市さんの飛び道具めいたキャラクターと台詞に圧倒された。
先の2つの短編は2人芝居だったが、3作目の『惑い人は還る』では、遠く宇宙を旅する少女と地球で待つ父親が、それぞれのかたわらにいる女性(型のアンドロイド)と交わす会話で進む2人芝居×2のような3人芝居であった。
宇宙を隔てた父と娘の孤独や迷いに手を差し伸べる、死んだ(妻=母)の姿と記憶を持ったアンドロイドの慈しみと、終盤で希望を語る少女のキラキラとした表情が、これまでの物語に登場したすべての壁を乗り越えていくチカラを持つように感じられた。
壁をテーマに描かれた3つの愛の物語はゆるくつながりながらそれぞれ綺麗に着地し、そして気がつけばまたつながってひとつの物語となっていた。笑いも多めの軽妙な会話とその奥の切なさを魅力的なキャスト陣が立体化して、小さな劇場に見えない壁と宇宙が立ち現れるように感じられた。