『死なない男は棺桶で二度寝する』 &『オハヨウ夢見モグラ』 公演情報 ポップンマッシュルームチキン野郎「『死なない男は棺桶で二度寝する』 &『オハヨウ夢見モグラ』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    『死なない男は棺桶で二度寝する』
    タイトルのとおり、死なない男の話。『錆びつきシャックは死ぬほど死にたい』などとも共通する不死の哀しみを題材にした作品だ。

    ヒロインである信子が、偶然(?)知り合った1人の男。名は六郎。とても優しくて、でもちょっと世間からズレているその男には、ある秘密があった……。

    楽しいクリスマスパーティのはずが、半裸の男女が血まみれで飛び込んできたりする予想外の展開、破天荒なキャラクターたち、社会風刺すれすれのナンセンスさなど、笑いの要素をたくさん詰め込みつつ、物語はしだいに孤独や哀しみに寄り添っていく。

    主演の吉田翔吾さんは、可愛らしいルックスとどこか浮世離れした演技で死なない男の孤独を描き出していく。

    特に印象的だったのは、人魚の肉を喰らう場面だ。

    グロテスクな姿の悪臭を放つソレを、たらいからつかみ出しナマのまま貪る。妹を守りたいという想いに突き動かされて。

    ふだんの優しい印象からは想像できないほど壮絶な怒りと哀しみと焦燥と……。

    圧倒された。

    彼の秘密を知る男 大島。記者である信子は、精神病院で彼の話を聞く……。その内容の奇妙さと男の苦悩。横尾さんは他の作品でも似た感じの痛ましい役を演じて印象的だったが、ここでも物語の暗さを引き受ける役柄に説得力があった。

    さまざまな出来事を重ねて、終盤に登場する、小岩崎さん演じる老女がとても好きだ。この方の老け役は他の作品でも何度か拝見しているが、いつもなんていうか、メイクや髪以上に声や仕草が重ねてきた年月を感じさせる。

    この作品でも、過ごしてきた半生がにじみ出るような、素敵なおばあさんだった。

    忘れてしまったその人との日々。それでも、運命に逆らうように刻みつけた名前。

    いくつもの伏線が気持ちよくハマってラストの感動につながる。いろんな意味で綺麗な物語であった。

    観終わったとき、すべての登場人物が懐かしく愛しく感じられるのは、六郎の孤独と思い出に気持ちを重ねているからかもしれない。

    『オハヨウ夢見モグラ』
    こちらは短編集だ。ただし、短編の外枠となる物語があって、全体ではひとつのストーリーとも言える構成となっている。
     
    子どもの頃の事故が原因で、眠ったまま生き、年に1日だけ目覚めることとなった男の物語。目覚めた時に彼が語るいくつもの奇妙なお話がそれぞれ短編となっている。
     
    『きみはぼくのやさしいともだち』
    リストラされた武田が出会った若者 江尻の提案は、大金と引き換えに自分の友だちになってくれ、というものだった。
     
    金を使い続け、引き返せないところまで来てしまった武田は妻や元上司にも裏切られ……。
     
    武田を演じる加藤さんの、平凡な元サラリーマンとしてのとまどいや欲や打算に共感しつつ、その運命がどこへ向かうのか、ハラハラしながら観ていた。
     
    『無音はお前の耳にも届いている』
    マスター:渡辺裕太
    バーのカウンターで、マスターと客が交わす何気ない会話からはじまるとっても怖い話←語彙力(^_^;)
     
    マスターの静かな狂気と死んでいく正田の傍らで微動だにしない客。彼には聴こえているのか、いないのか。
     
    ホントに怖いのは幽霊とかじゃなく人間なんだよな、などと改めて思う。
     
    『いつでもいつもホンキで生きてるこいつたちがいる』
    冴えないサラリーマンの松本には、かつて人間ではない大切なともだちがいた。ある日、人間に駆逐されたはずの彼らが蘇って……。
     
    ま、なんていうかこういうの、この劇団らしいって気はする。怒られそうなスレスレの悪ふざけをしつつ、芝居も登場人物も一生懸命な感じにちょっとうるっときたりするのだ。
     
    『黒豆』
    これ一編で上演されても満足できそうな完成度とボリュームのある作品。

    加藤さん演じるブラック・ビーンは、クールなエージェントとドラーグクイーンという2つの顔を持つ。決めポーズがばしばし決まるカッコいい昼の顔と、セクシーかつナイーブな夜の顔の振り幅が素敵。

    妹のジェシカと同僚のソフィーを演じる増田赤カブトさんもタイプの違う役なのに、それぞれピタリとはまってチャーミング。
     
    物語の中で2つの顔を持つ男と、2役での2つの顔を持つ女。トリッキーな構成で、たくさん笑いながら、実はとてもロマンティックだったりするのも面白かった。
     
    『じかんをまきもどす』
    星新一のショートショートみたいな、時間モノの洒落た短編。でも、まきもどす様子を目で観る面白さは舞台ならでは、かも。
     
    そして、それぞれの短編をつなぐ軸となるストーリー。
    『モグラの見た夢』
    野口オリジナルさん演じるミツオは、年に1日だけ目覚めて、少年の精神のまま老いていく。
     
    眠りの中で集合知にアクセスしているのかもしれない、という医師の説明を背景に、彼の語るたくさんの物語が、それぞれの短編となっていた。
     
    目覚めるごとに、1年が過ぎている。気がつけば月日は過ぎ、自分も老いていく。無邪気な少年らしさは失わないまま、過ぎた時間は確実に彼の心にも積もっていったのだろう。そう感じさせる変化が切ない。
     
    母役の高橋ゆきさんをはじめとする家族や幼馴染の様子も笑いを交えつつ丁重に描かれて、ミツオのいない時間の経過を感じさせた。
     
    行き場のないそれぞれの想い。それでも、この物語は悲劇ではないのだと感じさせてくれる優しいラストがかえって涙を誘った。
     
    同時上演の『死なない男……』ともつながって、二本のPMC野郎を堪能した一日の終わりにふさわしいエンディングとなった。

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    2017/12/30 22:03

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