青森県のせむし男 公演情報 B機関「青森県のせむし男」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    天井桟敷の上演第1作。上演前から怪奇的な雰囲気が漂い、錫丈が鳴るような音、不気味な風音が阿佐ヶ谷ザムザという劇場内にピッタリとしていた。
    (上演時間2時間)【◆チーム】

    ネタバレBOX

    舞台セットは、段差を設け後景に大きな扉、そのイメージは古びた額縁。両側には高い位置から段通風の幕が吊るされている。下手側には蔦が絡まった鳥籠、その中に女学生(女浪曲師、ストーリーテラーの役割)が鎮座している。

    物語は、青森県の名家、大正家の跡取り息子に手篭めにされ子を孕んだ女中マツ。世間の目を恐れた大正家ではマツを嫁として籍を入れるが、生まれてきた赤子が肉のかたまりのようなせむしであったため大正家は下男を使って赤子を闇に葬った。生まれた子、その存在が無かったことにするため、戸籍(大正2年7月10日生)を抹消する。しかし、生まれた事実は抹消できず30年後、マツが女主人となった大正家に謎のせむし男・松吉が現れるが…。説明を鵜呑みにすることなく、観客自ら感じ考えさせるような公演。

    親子の確執、女の情念、子の思慕という人の本質とも言える感情を抉るようだ。母・息子という親子関係がなければ、単に女と男という”禁忌の性”関係が浮き上がる。そこから見えてくる欲動という行為が物悲しく映る。
    生まれてくる赤ん坊の背中に母の肉で出来たお墓を背負わせ、醜いせむしの男(息子)を通じて大正家に復讐しているのだろうか。しかし、憎むべき大正家を継いだ自身が、家制度を固守する矛盾に陥る。
    公演は「古事記」を引用しつつ、歴史の陰・陽や人間の内・外を表現する。史実に記された事実、一方闇に葬られた真実。人の外見・行動と心に秘めた深淵を大正家の家史とそこで蠢く人間、存在(陽)のマツと闇に葬られた(陰)の松吉に準える。その展開は、回想シーンに拠るものではなく松吉30歳になった現在だけで描き切る。その30年に別の挿話…戦争、差別などの不条理を独特な表現(デフォルメ)として観せる。例えば義眼、義手という不具者のような者を登場させる。それを嘲るシーンをギミック・フェイクとして滑稽に茶化すところなどはシュールだ。また松吉と鳥篭から出てきた女学生が踊るシーンでは緩い笑いを交え、怪奇な雰囲気の中に和みを入れ込む。

    物語に観える不条理は、その表現…演出の素晴らしさで際立ってくる。演出・点滅氏の身体表現、冒頭の同氏(役名:ヒルコ(棄神))の背中(肩甲骨)に描かれた羽絵を蠢かせる強靭・異様さに息を呑む。一方、女性2人(役名:巫女(狂女))の軽妙・嬌態という対比は印象付けという効果があるのだろう。
    ”舞踏的技法を用いた演出で新たな演劇の在り方を目指す”、その謳い文句はしっかり体現しており、実に観応えあるものにしている。 ラスト…蠢かせた背中、肉の塊が白鳥の羽のように生え変わり、羽毛が天から舞い散るシーンは、醜から美へ昇華されたかのようだ。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/11/24 17:43

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