HOTSKY『ときのものさしー帰郷ー』 公演情報 HOTSKY「HOTSKY『ときのものさしー帰郷ー』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「しょうがない」…この言葉の意味は諦念ではなく、別の意として捉えた前向きな応援歌。人は誰もが心の中に消すことが出来ない「思い」を抱えて生きていると思う。人生という時の流れの中で向き合った「思い」は家族の愛情であり昔の友情である。人の心の機微を優しい眼差しを持って描いた秀作。テーマは「老い」とその先の…。
    本作は作・演出の釘本光女史の経験に基づく自身作ならぬ自信作であろう。
    (上演時間1時間30分)

    ネタバレBOX

    舞台は北九州にある介護施設・海臨館である。この施設は海に臨み、その情景が物語全体を包むようにしている。主人公は初老の婦人・文恵(伊藤ゆきえサン)、その彼女が施設で静かに編み物をしているが、今日は死者の魂が海から帰ってくるという祭(まごころ祭?)、この世の者と懐かしい魂たちとが再会する。そんな不思議な物語である。
    舞台セットは、中央に横長テーブルと丸椅子、上手・下手側に供物や供花、そして精霊舟が置かれた台。

    亡くなった人々…中学時代の姉・ゆき(三谷あかねサン)、高校時代の友人・綾子(松岡洋子サン)、離婚した夫が文恵の前に幻影として現れる。懐かしい昔話、それは決して楽しいことばかりではなく、若さゆえの愛憎もあったが、すべて時の流れの彼方。
    一方、息子(亡夫との2役:山口雅義サン)とその嫁・亜紀(釘本光サン)が心配して施設に訪ねてくる。文恵は2人に相談なしで施設に入所したようだ。
    介護施設職員・佐伯(高橋和一サン)が、感情偏重になりそうな場面を客観的な立場で仕切るところは上手い。

    彼岸の魂や此岸の家族との交わりを通して「老い」の問題が浮き彫りになっていく。その過程と様子は、心が潤々となっていく。そして「老い」の一つの状態として「認知症」への懼れ。文恵が家族の顔・名前などを忘れる、すべてについて悲観的になる中、嫁が妊娠していることを明かす。人(家族)は繋がって行くと…希望への印象付けと余韻あるラストは感動的である。

    「しょうがない」は自分自身を許す”お守り”であり、他人を励ます”おまじない”であると言う。この台詞を北九州弁で話す、この地方の情景(既に実家も無く、親戚縁者もいなくなった土地の施設に入居したい意味)を俚言で映し出す演出は見事。
    テーマは「老い」であるが、人生の無常と希望が胸に刻み込まれる作品である。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/11/12 09:43

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