海岸線にみる光 公演情報 SKY SOART ψ WINGS「海岸線にみる光」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    生まれ出悩み…人は生まれた時から死に向かって歩み始めるという運命を持っている。いつか死ぬと分かっていても、それが現実に知らされた時、胸に去来する思いとは…。
    チラシでは、癌で余命宣告を受けた女性が、「生まれてきた価値を見出す」ため「心を切り取る」映像撮影を依頼する、そんな説明である。
    人間が葛藤する出来事を、大自然を後景に従え叙情豊かに描いた作品(作・別役慎司氏のオリジナル創作劇の50作目)。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    基本は素舞台。状況に応じて照明を薄暗くし、岩場をイメージさせる黒椅子、室内にソファー、食事場面のテーブルを運び入れる。これは簡素化することによって、人物にフォーカスした展開を意識しつつ、高知県室戸岬の風景を映像で見せ、人間と自然の対比を際立たせる演出だろうか。

    物語は2つの家族のそれぞれの事情を絡め、並行して展開していく。
    主筋は癌で余命宣告された女性が、「生きてきた価値」という「心を切り取る」撮影を通して人の”生”を考えるもの。特に娘との関係は、自分の仕事を優先するあまり子供のことは蔑ろにしたという後悔の念。
    一方、撮影を依頼された男は離婚経験があり、その元妻が再婚するにあたり子供を引き取ってほしいと、再婚相手とこの地まで来る。久し振りに対面した息子との激情した会話は圧巻。父親として養育費は支払っている…父親としての「義務と責任」という台詞は乾いた響き。愛情という潤いとはかけ離れ、そこに父と子の距離感を感じさせる。
    それぞれの都合を押し付ける身勝手さが浮き彫りになるが…。
    両方の家族を結ぶような看護師・番条和枝(石井寿美サン)の役割と第三者的な立場の視点に妙味があった。
    物語は先に書いたように、人の色々な葛藤が描かれており観応えがあることを前提に、次のことが気になった。

    主筋は余命宣告を受けた人の「心を切り取る」ということだったが、映像作家の家族に関する物語の方に重きが置かれたように感じた。当初は人生の最後に思うこと、死との向かい合い、恐怖や後悔する等、心の深淵を切り取るのではなかったか。それが娘との蟠(わだかま)りが氷解することで満足したような。その意味で本公演は当初伝えようとしていたことを「真に描き切った」のだろうか。

    公演全体としては、上演前の海鳥の鳴き声、波の音など音響や映像で観せてくれた。また食事シーンなどは、テーブルを横一列にするなど観客に観せるを意識した演出で好い(映画「家族ゲーム」(森田芳光監督)を連想する)。何よりも、先にも記したが、人物へのフォーカスした心象表現、それを具現化しているキャストの演技が素晴らしい。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/11/03 14:53

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