満足度★★★★
何度も再演された作品で、その度に作品はかなり変わる。作る方の意識以上に、見る側の状況が影響する。再演をかさねられるのは、戯曲が優れている証拠でもあるが、再演は演劇の面白さと難しさを感じさせる修羅場でもある。
宇宙人が三人やってきて地球人の意識を盗む、今後の地球侵略に備えての予備活動だというのである。「人間の意識」で、人間社会が成立しているのだから、この盗難で様々な人間関係のドラマが生まれる。それが現代社会の諸問題に触れていくのが秀抜だ
初演の2005年のサンモールは見ていないが、2007年の青山円形は見た。イキウメを見るのも初めてで、新しい演劇世界を作れる若い新進作家が現れたと大いに興奮した。現代社会の不可解と危険を巧みにSFの約束事の中で転がしてミステリアスな空気もある不条理劇だった。現代の不気味さ、奇怪さを、若い演技者たちが演じているのが妙に生々しかった。
それから10年。イキウメは評価され、今回の公演はトラムながら東京で26公演、昨日の段階で3公演の追加が決まっている。そのあと関西公演もある。映画にもなった。稀に見る大ヒットの「散歩する侵略者」の現状を見た。
舞台の空気は変わった。再演を重ねて、あやふやなところがなくなって、今回は幕あきからカーテンコールまで2時間余一気呵成に話が進む。SF活劇の趣もあって日本版ブレードランナーである。宇宙人の地球侵略とその攻防がはっきり表に出ていて、海に近い小さな基地の町に住む住民の生活感や人間性は後退している。かつては「意識を盗む」と言うSFならではの設定でじわじわと小さな町(政府から遠い)に迫る恐怖だったが、今回は敵がはっきりしている。今のご時世、北朝鮮をはじめ、正体の明確なものから不明確なものまで、さまざまな宇宙人的なものが身近になっているだけ、切実感は高くなった。かつては軽い笑いがあったが、それは影をひそめて怖い笑いである。
以前からの女優が出ていないが、男優陣は多くは初演のキャストで、みな、当たり前のことだが、やたらにうまくなった。気がつけば映画やテレビで見る顔も増えた。
確かに「散歩する侵略者」と言う芝居をどう生かすか、と言うのは、とても難しい話なのだ。事実、映画では、最初の方の宇宙人と接触するあたりまではさすが黒沢清、と言う出来で不気味さも迫ってくるのだが、後半の具体的なドンパチになるともういけない。話の折角の仕掛けが嘘丸見えになってしまう。映画の映像の具体性がこういうソフィストケイトされた世界を許さないのだ。
その点ではこの作品は芝居ならではのもので、舞台の上でこそ、作品が生きてくる。芝居である以上、今回のようなわかりのいい大当たり向け作りは必要だし、それは成功しているのだが、、意識を盗まれたものの不条理を軸に初々しかった青山円形の初演も懐かしい。それがいま成立するか? やってみなければわからないところが芝居の最前線なのである。