魔法の鏡、とその中身 公演情報 the pillow talk「魔法の鏡、とその中身」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     身も蓋もないAVのお話。と言っても社会性はある。

    ネタバレBOX

    マジックミラーの内と外、内側ではAV撮影や契約、籠絡などが行われているが、その詐術的話法の見事さには目を見張るものがある。とは言え、騙されたと気付いた時には、既に契約書に判をつき、誘導されて自らの意思によって選択したと解し得るあけの根拠を相手に与えてしまっているかも知れない。而も、会社側が必ず言い出すのが、費用の発生と違約金である。今作で違約金は100万とされているが妥当な線ではあるまいか。実際、AV女優だったことをカミングアウトして現在は、このような被害に遭った女性達の力になれればと活動している女性の話とも一致する。何れにせよ、街中で声を掛けられてスカウトマンについてきた若い女性がおいそれと払える金額ではないことが重要な点である。それでも出ない、と言い張る女性に対しては大声を張り上げて何人もの男が恫喝としかいいようのない「脅し」を掛ける訳だ。ゲットする側はおだてすかした上、ちょっと体の線を見たい、などと言って別室でヌード写真を撮影しているから、出ないと強情を張れば、それを彼女の通う会社や学校、知り合いにばらまくなどと迫るのである。
    このようにジェンダーの問題を絡めながらスカウトや彼らを雇い給料を払っているプロダクション、芸能事務所などを絡ませて、街中でスカウトした女性を強引にAV女優に仕立て上げる模様や、スカウトをやらせても効率よく女の子をゲットできない連中は結局仲間や社内で追い詰められて、自分の身の周りの女の子を売り込む様。契約書をろくに読みも読ませもしないで判子を押させ、これを根拠に無修正AVに出演させネット上にアップする手口等々が描かれてゆく。或る意味、啓発作品と言えよう。ネット社会での責任の曖昧化、海外のサーバーを経由することによる国内法からの抜け道、当然のこと乍ら、違法すれすれのことをやらせているプロダクションには、顧問弁護士がついているという法的問題点も類推させる。即ち法など解釈次第であると同時に時代の趨勢や力関係だというあからさまな実情が浮き彫りにされて、欺瞞社会そのものが今作のターゲットとされていることが理解できる訳だ。
     何れにせよ、現在では、我が国の哲学の本流もポストモダンの修辞学的傾向助長によって、下司共の主張を正当化するに至っている。無論我らの存在の基盤は曖昧である。何処から来て何処へ行くのか? 定かでは無いし、一体我々が何者なのか? も定かではない。その曖昧を精神に置き換え、人間として当たり前だと思われる思惟の普遍性によって根拠づけてきたのだろうが、今やそのベースが崩れ去って、時代の潮流は詭弁である。その詭弁を駆使して弱者である女性を性の道具乃至性奴隷として娯楽に供している姿が描かれている訳だが、ラストシーンがその対極に位置する。即ち客席と舞台を遮るように設置されたマジックミラー越しに、鏡の中身であるAVを巡る実体が、それを享受する我々を見返しているのだ。
     我々自身を律する倫理として、最低でもこの程度の自己批評意識は持っていたいものである。

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    2017/09/26 12:50

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