笑顔。(すまいる) 公演情報 劇団光希「笑顔。(すまいる)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「子供叱るな いつか来た道、年寄り笑うな いつか行く道」といった言葉があったと思うが、今の社会で大きな問題となっている事柄を家族の観点から捉えた秀作。一般的に高齢者が発症すると思われているが、公演では若くして発症したという設定で、観客に問題の広がりと深刻さを示す。現在は”痴呆”から”認知症”という病気であることが知られ、その行動・行為の特徴をうまく物語の中に溶け込ませている。だからこそ、観客の中には介護経験の過去記憶または現在進行における共感を呼び感動に浸ることができる。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    セットはしっかり作り込んでおり、場内に入ったとたん、そこはうどん処「たまや」の店内、という世界観が広がる。中央奥に厨房、上手側に上がり座敷、正面にテーブル席、カウンター席。下手側に出入り口、暖簾、そして外には簾が見える。他にも細々とした調度品が置かれ臨場感たっぷりである。
    また、夏から冬への季節の移ろいを感じさせる衣装替は、時の流れを感じさせる見事な演出であった。

    冒頭、映像で楽しい雰囲気を見せ、芝居へ引き込むという手馴れた演出。登山(弥勒山?)客がこの店の評判を聞き来店していることによって、店が繁盛していることが分かる。当日パンフでは、この店は東京から1時間ちょっとと書かれていたが…。その距離で”うどんで有名な街”は埼玉県加須市を思う。一方、弥勒(迦葉山)というと群馬県、そして水沢うどんを思い出す。細かいことであるが、この土地(地理)が気になったのは、後々、介護問題(経済面)で直面した時のことを考えると…。

    店主で主人公の吉村アキ(音無ミ弥サン)は一人で子供4人を育ててきたが、長男を10年ほど前に交通事故で亡くす。今は二男と二女と一緒に店を切り盛りしているが、そんな中、若年性認知症になっていることが分かる。認知症の特徴である、人物・摂食・道順さらに公演では致命的な味覚の忘れが顕著になってくる。本人の健気さや不安が交錯する様子。一方それを見守る家族の心配や憂鬱も見えてくる。

    公演は、認知症になった本人の視点から描いている。その気持を推し量るには、当事者のようにならないと難しい。一方、介護する家族の視点にすると、生活面はもちろん経済面にも負担が大きくなることが解る。人間ドラマか社会ドラマか、その視点の捉え方で観客(自分)の受容も違うように思う。いずれにしても、物語性は豊かで思わず感情移入する。そして認知症は家族だけではなく、ケアマネージャー等専門家や地域での支えも大切。公演では専門医の登場、近所の人達の温かい見守りとして描いている。そこにしっかり泣き笑いが織り込まれ感情が揺さぶられる。
    自分でも肉親の介護を経験していることから、物語の内容は十分理解できるつもり。もっとも子供の視点であるが…。
    豊かな情感をたたえていながらも、ノスタルジーや感傷に浸ることなく、力強く前向きな、そんな人間讃歌を思わせる。

    卑小…先に記した土地のこと。東京への転勤(栄転?)の話があったが、介護のため転勤を諦めたようだ。1時間ちょっとの通勤時間であれば、今後の金銭面を考えれば通勤範囲のような気もする(公演では別の形で療養費が見込める)。

    次回公演を楽しみにしております。

    3

    2017/09/16 17:09

    1

    0

  • タッキーさま

    ありがとうございます!
    そうおっしゃっていただいて、とてもうれしいです!
    そうですね…認知症を題材にして書くことになり、いろんな文献を読んでまず思ったのは、これは「絶望的な病気」なのだな、ということでした。
    でも、命あるものは老いからは、絶対逃れることはできない。
    それだったら、前向きにとらえ、描きたいと考えました。
    私たちの芝居を観て、希望を感じ、元気になっていただきたかったからです。
    中村が書いた今作の原案のテーマは「生きていれは絶対にいいことがある」というものでした。
    私もそれに大いに賛同し、それに肉付けをして、この作品ができた次第です。

    「なんともいえない日本的で微妙な家族の問題」は、この物語の第二のテーマでした。
    そこも伝わってうれしいです!

    忘れられるのは確かに恐ろしいですね。
    だからこそ、私たちは「誰かの心に残る」作品を、人生をかけて作り続けているのかもしれません。

    舞台上で出てきた「弥勒山」という山は、私の頭にふと浮かんだ地名で、現実の山とは無関係なものです。弥勒=慈しみ、からイメージして書きました。

    季節の移り変わり、衣装替えなど、細かなところにもこだわって作りました。
    感じて頂けて、とても幸せです。

    どうもありがとうございました。
    タッキー様も、どうぞお体を大切に…これからもよろしくお願いいたします。

    2017/09/18 14:32

    みかん さま
    「なんともいえない日本的で微妙な家族の問題」は、十分伝わるものでした。そして、認知症という怖い題材を前向きに捉えているところが素晴らしかったです。
    誰の言葉か忘れましたが、死は怖い。しかし、それ以上に人に忘れられるのが怖い。死んでも人の記憶に残っていれば、その人は死んでいないと…。認知症は自分が忘れていくんですから余計怖いです。

    場所は加須市でしたか。初めに「かしょう(迦葉)山」という台詞があったようで勘違いしました。自分も行ったことがあります。良いところで、うどん祭のようなものがあったと思います。

    認知症が進んでいくさまを、季節の移ろい(衣装替え)として表現しておりましたね。追記させていただきました。

    これからも、日本的な泣き笑いのお芝居を楽しみにしております。
    これから寒くなります。ご自愛下さい。

    2017/09/18 09:34

    タッキー様、いつもながら丁寧なご感想、誠にありがとうございます!
    さすが! 実は、この架空の地方都市のモデルは、「加須市」です。
    加須うどんの町として知られるこの町は、近くに不動ヶ岡不動尊があり、9月の大祭には観光客も訪れるそうです。話の都合上、近くに山が必要でしたが、残念ながらここには山はありません。そこで、埼玉県秩父芦ヶ久保の「丸山」を組み合わせて書きました。また、加須うどんは、つけうどんが主流だそうですが、その中におばちゃんが一人で切り盛りしている家庭的でかつ有名な店があり、そこはかけがメインだったので、それに倣い、アキの店の名物はあったかいかけうどんにしました。

    東京への転勤の件ですが…確かにおっしゃる通り、東京から近すぎるかもしれません。ただ、私が考えたのは…徒歩で10分のスープの冷めない距離に住んでいた娘夫婦が、そう遠くはないといえ、他県に引っ越してしまう。徒歩と電車であれこれ乗り継いで行けば、なんだかんだで100~120分近くかかる。その距離の違い。もしなにかあった(この物語のような徘徊や事故など)ときに、安心感が全く違うように思ったのです。実際にそのような状況になった家族の実感から書きました。もちろん、引っ越さず加須から会社に通う手もあるでしょうが、東京に住む夫の両親からすると、婿養子でもあるまいし…とあまりいい気持ちはしないでしょう。そういう、なんともいえない日本的で微妙な家族の問題を描きたいと思い、このようにいたしました。
    でも、確かにわかりづらかったですね。
    思い切って、海外に転勤という話にすればよかったかな、と思っています。

    認知症になっても、その人の人生はけっして終わりじゃない。
    新たな出会いもあり、恋(?)の可能性もある。
    そして店の未来への夢、挫折…家族への愛…
    …良いことも悪いこともいっぱいあり、その中で人は力強く生きていく。
    そんな思いが込めて作りました。

    十分に受け止めていただいて、とてもうれしく思っています。
    これからもがんばります!
    どうもありがとうございました!

    2017/09/17 11:44

このページのQRコードです。

拡大