しょうちゃんの一日 公演情報 風雷紡「しょうちゃんの一日」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    昭和38年の狭山事件をモチーフにしているが、事件の概要を示すような、例えば裁判記録を辿るような展開はしない。見方を変えれば、事件を媒介にして家族のあり様を描いた公演と言える。当時の時代背景の特徴を見せつつ、家族という視点で事件を捉えている。その家族のあり様に、戦後の混乱期から成長期を迎える時代背景が見えてくる。
    それを舞台美術で上手く表現する。その巧みなところ、場景・状況はある程度具現的に現し、逆に情景・心情は観客のイメージを刺激、解放するような表し方である。事件の解明過程を、刑事の家庭と被害者家族という二つの視点から描く力作。この家族を交差させるのが”しょうちゃん”である。
    当日パンフには、登場人物の相関図や狭山事件関連年表が書かれており、公演を分かり易くしているのが好い。
    (上演時間2時間20分 途中休憩なし) 2017.8.20追記

    ネタバレBOX

    セットは、上手側に座卓・座布団、更に客席寄りには座机。下手側にはダイニングテーブル・椅子・食器棚が置かれている。その間に幾つかの柱のようなものが立っている。また床には白線(テープ)があり、3つの別空間を出現させている。舞台奥(戸外イメージ)に当時を感じさせる黒合板が張られているのが見える。この和・洋の屋内は、家族の生活様式を具体的に見せ、間にある柱などの空間は、観客が情景や心情を自由に感じ取ることが出来る、一種の心象形成を成すようだ。

    冒頭、しょうちゃんが拉致されるようなシーン。2つの家族が客席を凝視しているかのような光景は、事件のTVニュースを見ているということか。引き幕に公演関係のクレジットが映し出され物語が始まる。事件の真相を探る刑事は、その職業とともに家庭人(父親)という顔も描く。通勤ラッシュ、集合住宅の購入という刑事をサラリーマン風に描くことで、新しい家庭(族)観が透けて観えてくる。約半世紀前の事件を通じて、「仕事」と「家庭」という現代にも通じる”人間”の話に繋がってくる。事件を決して暗くも重くも描かない、その坦々とした雰囲気とテンポが好かった。

    上手側・和室が被害者宅、旧家で屋敷も広い。一方、下手側・ダイニングは刑事宅で集合住宅。この和・洋の住宅に家族構成(核家族)を重ねいろいろな対比を観せる。事件の被疑者は、本人のみが取調べを受けるという形で登場する。その家族は登場せず、住んでいる地区(地域)は、特別または差別されている場所のようだが、その説明は台詞のみ。事件の背景の複雑さ難しさが端的に解る。事件の真相は明らかにされないが、犯行の概要をおぼろげに示唆する。観客(自分)が消化不良にならない程度に見せているところが心憎い。

    公演では、2つの家族の視点から観た事件、その交差する役割を刑事の二女”しょうこちゃん(被害者も同じ呼び名)”(吉水雪乃サン)が担う。毎晩うなされる夢、それが事件に関係しているような、そして刑事の父を思う気持が相まって被害者宅へ…。先に記した狭山事件の取り扱いの難しさを、家族という視点で概観を描く巧みさ。観応え十分であった。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/08/17 17:55

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