奇想の前提 公演情報 鵺的(ぬえてき)「奇想の前提」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鵺的4公演目の観劇。「この世の楽園」あたりで劇団名を認知、「丘の上、ただひとつの家」で漸く初観劇、ヒューマンドラマかサイコドラマか・・「悪魔を汚せ」でサイコホラー路線を確信。これは作者の志向というより好みの問題だろう、と。また同公演から寺十吾を演出に迎え、今回も同コンビ。そして少年王者館・夕沈ほか俳優陣のユニークさが目を引いた。
    装置はパノラマ島に建設された異様な建造物の内側。照明効果で闇になじむ建物を、若者三人(男一人女二人)が訪れ、二人に「ここすごく気に入った」と言わせ、一人に「耐えられない」と言わせる。その台詞が納得の舞台上の空気がまず観客を引き込み、事態の経過が見守られていく。
    結論的には、脚本の粗さを、大胆にホラー色に突っ込んだ演出がフォローしたか、むしろ粗さを際立たせたか・・評価が分かれる所だろうか。

    ネタバレBOX

    江戸川乱歩「フリーク」ではないが嫌いでない一人としては、ストーリーそのものはオリジナルではあっても、完全に「パノラマ島奇談」有りき(登場人物と原作のストーリーはそのまま借用)である作品にもかかわらず、乱歩の歩の字もチラシに謳っていないのはどうも・・ちと反則ではないか?
    人格の一貫性が描ききれていない人物が一人二人でなく、これでは肝心のどんでん返しの効果が薄まる。演出で盛り上げていたが・・本の問題と、役の造形の問題も振り返ればあった気がする。
    ダークな方のヒロイン役の狂気を帯びた人物像、内側からやむにやまれず陰惨さにのめり込んでいく、殺人が嗜癖のように彼女を捕らえているという、哀れさを催す乱歩作品のヒロイン像(黒蜥蜴とか)がほしいのだが・・どうもニュアンスとして復讐心や、極限状態で気が触れてしまう狂気の笑いをちょっぴり織り交ぜた定型的な演技に終始して勿体ない。もう一方のヒロインも「居なくなった」後、忌まわしい血と闘っている=本来の自分の欲求を自傷のように押し殺す(自己犠牲の)様が想像され、観客の胸を熱くする・・と行きたい。
    そうなってこそ、最後に残ったもう一人の末裔が「自分自身の本当の願望」を問われ、示唆される像というものが真実味を帯びてくる。そう見えてこなければ正解でない作品だったと思う。

    パノラマ島の屋敷の爆破、気球、人間花火と、血のクライマックスを演出するアイテムは揃っていたが、このパノラマ島の来歴が、後の世の人々(登場人物)にどんな影を落としていたか、リアルに腑に落ちる「形」として見えてこなかった事がそのクライマックスに乗っかる事を妨げていた。理由の一つには、時期についての説明がうまくない事が言える。
    まず、原作の話。M県の資産家・菰田家の亡くなった主に、うり二つの人見という男(実は大学の同級生)が、故人に成りすまして当家に入り込み、資産を転用してかねてからの夢を実現すべくパノラマ島を建設する。その後の血塗られた顛末がまずある。そして現代(殆ど現在に近い時期である事が何かの台詞で示されていたが忘れた)、その末裔である姉弟とその従姉が興味を惹かれて(祖母の言いつけに背いて)パノラマ島にやって来る。この現代の話と、前史としてその15年前の話が入れ替わりつつ展開する。重要登場人物は、菰田家の三姉妹、その使用人で財産管理その他の一切を切り盛りする男、そしてパノラマ島に取りつかれた男(島で管理人を一人で続けている)。先ほどの若者の内姉弟の母は三姉妹の次女で、従姉の母は三女であるが、親となり得ない資質のため三人は菰田家の邸には住まず養子に出され別姓を名乗っているという、特殊な状況がある。
    ところが現代の三人は良いとして、三姉妹の異様さが、昔な雰囲気なので、時代感がいまいち掴めない。私は原作を知らなかったので、踏まえられている原作のエピソードがどこまでで、三姉妹の時代との境界を敷きにくかった。
    三姉妹の生活と「現代」の風俗との接点ないし距離感を示す一つ要素があれば、立体的に浮かび上がったように思う。原作の話のあった時代から、遠く隔ててなお、三姉妹、その子の世代に忌まわしい呪いのように付きまとうもの、それは何なのか・・対象化され、思わず考えてしまう話として見えたかった。
    演出として既に見えている事実が、台詞として改めて語られたりという、重複感も、サスペンスとしては停滞を生んでいて、もう一歩、人間の闇の真実へと迫る視点が欲しくなる。
    舞台効果が優れていただけに、惜しい感じが残った。

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    2017/07/29 08:57

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