「クラゲ図鑑」 公演情報 えにし「「クラゲ図鑑」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    国籍は違うが、男女の愛憎、親子の情愛という普遍的なテーマを据え、ある出来事までの軌跡を丁寧に描いた秀作。タイトル「クラゲ図鑑」は、生き方そのものを暗喩した表現。ちなみにクラゲは漢字で書くと「水母/海月」になるらしい。母はこの物語の主人公、そして海月はチラシのデザインのよう。このデザインは母・ソン・ミンス役(赤瀬麻衣子サン)の手によるもの。
    (上演時間1時間40分)

    ネタバレBOX

    セットは、中央にカーテンで仕切った回り舞台。上手側には少し高い位置に警察の取調べ室イメージの机と椅子。また上手壁にバスケットボールのゴールネット。下手側には水槽。回り舞台はその時々の情景や状況をイメージさせ、また小道具(例えば水商売の店内など)が置かれる。物語は主人公ソン・ミンスの生きて来た人生を息子が回想するという展開である。

    物語は三章で構成...事件を取り扱った刑事の質問に答えるという形で、母、息子・崇明(前田勝サン)の歩んだ生活が順々に描かれる。第一章は、母と台湾人の父が結婚し僕が生まれた。僕は台湾人の名前が付けられる。その実父は職を転々とし、何時しか酒浸りになり夫婦関係は破たんした。僕は一時韓国の伯母さんのもとで暮らした。その時に韓国の名前で呼ばれた。第二章は、母が日本人と再婚し、僕は日本へ来て一緒に暮らすことになる。日本での名前が「崇明」...僕には名前が三つある。この義父は女癖が悪く、母の嫉妬は狂おしいほどの怒り。その挙句、母は義父を殺害し、自分も自殺してしまう。第三章は母と僕の確執と思慕が抒情豊に語られる。これからは僕の未来の物語が…。

    子供の頃、台湾人の父と一緒にクラゲを釣り上げた。クラゲは波が無いと海に沈み死んでしまうらしい。自宅でクラゲを飼うため水槽へ。偶然であるが、自分の座席(上手側、前から3列目)からクラゲを水槽へ入れた後、それを眺めている役者の姿が硝子に映り込みとても神秘的であった。クラゲに必要な波...それはソン・ミンスにとっての「愛」の求め、捧げるという比喩のようなもの。そして韓国女性の直接的な感情表現、日本人の奥ゆかしいという曖昧さ。愛情表現のシーンで際立たせ民族性の違いを垣間見せる。
    この公演は、脚本・西村太祐氏、演出・寺戸隆之氏、脚色・劇団主宰の前田勝氏の優れたチームワークによって観応えのある作品に仕上げた。また水槽の件といい、歌(昭和歌謡の数々、そして赤瀬サンが歌う天童よしみの「珍島物語」が悲哀)という舞台技術も効果的である。

    国家観として描くには色々と制約や配慮が必要と思われるようなシーンも、人間、その感情に負わせることで違いを描き出し、想いをしっかり伝える。そこに国籍を超えた人間、母子の情感が浮かび上がる。ラスト…母と子の会話-慟哭と罵倒、憐憫と追慕、表現し難いような感情が錯綜し余韻を漂わす。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/07/10 19:47

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