七、『土蜘蛛 ―八つ足の檻―』 公演情報 鬼の居ぬ間に「七、『土蜘蛛 ―八つ足の檻―』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    この劇団の公演は、「地獄篇 ―賽の河原―」以来久しぶりに観させてもらった。
    公演は、尊厳の否定、暴力の肯定という醜悪な面を掘り下げ、妥協せず、人の深淵を凝視し続けるような物語。安易に希望、光などという救いは欠片ほども見せない。それでも地べたを這いずり回り必死に生きる。逆に言えば”生”への執着、その力強さを浮き彫りにした力作。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    セットは、二階部を設えた上下二面で、時間と場所の違いを視覚的に分からせる上手い作りである。一階部(タコ部屋)は汽車が通るトンネルを掘る土工夫の非人間的な環境での肉体労働を描く。一方、二階部(女郎)は私娼窟で働かされる女郎(女将)部屋という設定である。また女将の部屋の和箪笥、衣装(遊女、土工服など)、つるはし等の小道具も時代感、臨場感を増す。当日パンフによればどちらも北海道という地である。
    時代は、タコ部屋と女郎の間に20年ほど流れている。視覚的にはそれぞれのシーンが入れ子状態で展開するが、もちろん実際は交差していない。

    タイトル「土蜘蛛」とは、平家物語ではまつろわぬ民の怨念と説明されているという。そして「土雲」と表記し穴倉や洞窟に住んでいた集団を意味するらしい。このタコ部屋は、現代日本の格差社会を思わずにはいられない。特にバブル崩壊後、持つものと持たざる者、貧富の差が拡大する。芝居のような直接的な暴力こそ見かけないが、怨嗟が聞こえてきそう。

    一見、”人間”の強欲という「個」の面に目が向いてしまうが、先に記した”社会”という「集」への鋭い批判が浮き上がってくる。時代背景は昭和、それも戦時中らしい。その重々しい空気感が緊張をもたらす。会場全体が薄暗く、客席を含め穴倉へ導かれてしまったかのような錯覚に陥る。また上演前からの寒風吹く音響効果も見事な導入である。

    この雰囲気の中で、役者の演技が迫力・緊密感で漲っている。演技のバランスもよく観客の集中力を途切らせないテンポ。特にラストシーンの女郎であった女将・綱(田中千佳子サン)と土工夫・辰夫(小島明之サン)の20年の時を越えて邂逅するような情景は圧巻。もちろん直接会うことはなく心象形成として観せているのであるが、このシーンこそ絶望の淵にいても、”信じる”という目に見えない拠り所になっている。全編にわたって金・物欲、暴力という否定的な見せ方の中で、細やかな抗いのようにも思える。それゆえ鬼気迫る情念のようなものが感じられた。
     
    次回公演も楽しみにしております。

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    2017/07/08 21:53

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