満足度★★★
「想像力」を生み出すことへの果敢な挑戦を重ねた意欲作でした。
そもそもこの戯曲を選ぶこと自体が、大きな挑戦だったと思います。この世に生まれ、自らの足で立ち、歩む。そしてまた、新しい世代が誕生し、立ち、歩んでいくだろう……という内容は普遍的かつ感動的でもありますが、ともすれば「一人ずつの男と女が子供を産み育てることこそ正しい」という価値観の称揚につながりかねません。また、ごくシンプルな言葉と動きで巧みに普遍性を醸成する柴作品は、作家による演出と不可分のものにも思えます。
しようよ版『あゆみ』は、こうした課題に「男だけで演じること」「戯曲外のエピソードを引用すること」を持って応えようとしていました。男性のみのキャスティングは、柴戯曲の女性キャラクターにおいて強調されがちなイノセンスへの違和感を感じずに済むという意味でも、性差とその役割をめぐる価値観をいったん保留できるという意味でもよく機能していたと思います。また、(多少内向きではありますが)出演者や劇場をめぐるエピソードを劇の冒頭と終わりに持ってきたこと、途中(多少唐突ではありますが)ルーマニアでの女子大生殺害事件が持ち出される部分などにも、この劇を単なる命/家族礼賛に終わらせない、より広い「想像力」へのきっかけにしようという意欲を感じました。
とはいえ、円環状につくられた演技スペースは、(命のリレーの意味では理解できるものの)かえってその中央で展開される結婚・出産・育児といった幸せな家庭の風景を際立たせてしまうきらいもあると感じました。もっともこれは、主人公の女の子の両親を演じた金田一央紀さん、門脇俊輔さんのチャーミングさに惹かれてしまったせいなのかもしれませんが。