雨と猫といくつかの嘘 公演情報 青☆組「雨と猫といくつかの嘘」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    終演後、作・演出の吉田小夏女史に挨拶と簡単な感想を伝え劇場を出たところ、雨が降り出した。ふだんであれば鬱陶しいと思うところであるが、その夜は劇中に引き戻されたような特別な感慨が…。同じように劇場から出てきた人々も異口同音の感想を漏らしていた。この公演、一言で言えば抒情豊かな仕上がりの珠玉作といったところ。
    【Aチーム】

    (上演時間1時間15分)

    ネタバレBOX

    舞台美術が素晴らしい。この舞台セットは初演時と同じだという。舞台中央は畳敷きの和室イメージ。周りを通路のように囲い、上手・下手側に収納BOXが置かれ、その上部に飾り棚のような。舞台奥は客席に平行に飛び石、その上部・垂直に粗い暖簾(紐)のようなものが吊るされ、そこにビー玉(雨イメージ)のようなものが取り付けられている。全体的にしっかり作り込むという感じではなく、骨組を出現させるという表現の方が相応しい。

    梗概…熟年離婚した水野風太郎は60歳の誕生日を迎えた。その一人住まいに娘とその婚約者が訪ねて来るところから物語は始まる。この風太郎の子供、中年、そして現在(還暦誕生日)の日常生活を通して、一人の男と男を取り巻く家族の滋味ある人生が描かれる。先に記した部屋はアパート。その部屋はそれぞれの時代の住んでいた部屋に変わり、しっかり作り込んでいないことが、観客の想像力を豊かにする。それが年代層が違う観客の描く情景・状況に寄り添うことになる。大きな事件が起きることもなく、坦々と過ぎる日々の暮らし…そこに市井の幸せがあるかのようだ。

    水野風太郎の子供・中年・現在の時代を往還するように描くが、その視点はいつも主人公のもの。それゆえ、キャスト6名は風太郎以外、複数役を担うことになる。そのキャラクター、立場の変化は見事で観応え十分である。いくつかリフレインシーン(例えば、猫の玉三郎が家を出るところ)があるが、心象形成とその確認のようで説明過多になりそうな微妙なバランスにあったと思う。

    劇中の台詞、人生で泣くのは3回…生まれた時、大切な人が亡くなった時、生きていて良かったと思った時だという。その意味で本公演は還暦を迎えた大人の生まれ変わり、という回想が心情に迫ってくる。

    最後に演出について、室内(通常)と戸外(スロー)の動きの違い。そこに現在と過去の時間の流れ、違いを感じる。また雨の音と傘の情緒性が良い。傘は透明のビニールで、表情がしっかり観てとれる。ラストは還暦イメージの赤い傘。2008(平成20)年が初演というが、携帯電話を用いず生身の人と人、家族の向き合った会話が昭和をイメージさせる。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/05/27 15:43

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