ズルい奴ほどよく吠える 公演情報 雀組ホエールズ「ズルい奴ほどよく吠える」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    久々に新規劇団を開拓。シアターグリーン界隈で馴染みらしかった(そして見なくなった=従って観劇に至らなかった)幾つかの劇団の名を思い出したりしながら、観劇日を待つ。
    当日は後部からの俯瞰で、劇場の舞台の体裁や美術の「作り物感」に、はじめは抵抗(入り込めなさ)を覚えたが、即興の感さえあるスピーディなくっ喋りを挟みながらいつしかストーリーに引き込む。伏線が敷かれた後、軽妙なテイストらしからぬ「事件」が起こり、らしからぬシリアステイストで真相が紐解かれていく。(評判の良い)ラストの謎解きに関する評価はおくが、現実にあり得る「悪」を悪としてストーリー上で露見させ、きっちりと鉄槌を食らわす場面が書かれていた事には、痛快とはこの事を言うものであったと、妙に懐かしさに見舞われた。
    所狭い舞台をうまくさばいていた。

    ネタバレBOX

    東京五輪開催のための用地買収の対象になった、何代も続く工場兼住居の家族を巡るスキャンダルと、その家族の一員の青年(確か工場の若社長の弟だったと思う。違ったら失礼)が夢叶って教員として勤めていた私立学校におけるスキャンダル。この二つは裏で絡んでおり、前半に起こる「事件」とはその教員であった弟の自殺(学校の屋上から飛び降りた)であった。もっとも警察で自殺と断定されたものの、親族は他殺の可能性を疑っている。
    どうみても彼は「殺された」としか考えられない展開で、実際に物語には学校法人の有力な財政援助者である某が登場し、自分の息子が行なった悪事を叱った若い女教師を非難すると、唯々諾々の女学校長とその金魚のフンに忖度させ女教師を担任から外させるなど、影響を及ぼす。その男が実はヤクザ(っぽい奴)で五輪用地の利権に絡んでいる。
    さて辞めさせた担任の後釜に、弟が座り、学校内で抗えない立場となり、回り回って実家の土地家屋売却に同意する事となった、という。同意書には男の印鑑が捺されているが、あるいはその事が心のしこりになったか、など色々と想像されるが、少なくとも弟を追いつめただろう嫌疑は、芝居の中では固まっている。
    さてその上で、弟は本当に自殺したのか(いや、自殺はないがどういう死に方、いや殺され方をしたのか)は中々明らかにならず、最後の最後に「謎解き」される。
    この謎解きの前後が、少々問題ありに思われる。

    社会の時代的背景と、そこから大いに生じ得る事態が、うまく描出されている。現に「金」の論理が人を、世の中を動かしている時代に、この芝居はそのカラクリに踏み込み、為政者を想起させる対象への揶揄・批判の台詞が堂々と吐かれている。
    そして、法では正義をなしえないこの事件を裁く男として、家長である工場の社長がチャカを忍ばせて自殺現場の屋上を訪れ、銃(実は偽もの)に物を言わせて自白させ、悪を暴いて行く。
    だが、ここで、最後まで明かされなかった事実が、語られる。それは次の通り。
    ・弟は、自分は立ち退きに反対だ、という。そして地上げ屋の追い込みに合い、屋上の敷地の際に来ざるを得なくなる。
    ・そこである事実が告げられる、それは彼の姉(つまり社長の妻、だったと思う)が売却に合意してしまった事。偽造と思われたその同意書類は、彼女なら本物として作れた、という事である。そのことに少なからず衝撃を受けた弟だが、自殺ではなく、あるタイミングでバランスを崩し、完全に事故として飛び降りる(落ちる)事になる。
    この「真相」は、自殺どころか事故であり、他殺ではなかった、というものだが、「悪」として追求されてきた事実の焦点は、利権を求めて一人の人間を追いつめた事であり、そこは全く揺るがない。それによって屋上のやり取りへと発展したのであるから、間接的「他殺」と言っても過言でない訳である。「敵はそこにはいなかった」とは、行かないのである。きっちり、そこに、その本質は変らずに、悪は存在している。
    気になったのはそこだ。悪を追いかけて、追いつめた。そして、現に悪は存在した。だが「弟を殺したのは誰か」を法的に理解するなら、激昂して屋上からバランスを崩して落ちて死んだ、というそれだけの顛末だ。
    だが考えてもみよ、主人公である社長は、法で裁かれない悪を裁こうとやってきた。その事で言えば、たとえ彼の妻が借金苦から逃れさせたい「良心」からとは言え黙って立退きに同意した事は、淋しい事ではあるが、彼にとっての「敵」の姿を何ら違える事ではないのだ。
    ところが、「なんというどんでん返し」「敵は身内にいた」と、まとめられてしまうと、地上げや土地買収のために手段を選ばない「金の亡者」、彼らを動かす「金の権化」は、免責されたッてこと?と訝ってしまう。否である。
    溜飲を下げさせない展開が悪いというのではない、ただ、敵と認識しつづけて行かなければならない対象を、あれしきの展開で忘れないでほしいものだ。・・・と、これは観客への文句になってしまった。仕方ないが、ここは譲れないので書いてしまう。→→登録、ON!

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    2017/05/27 13:46

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