窓辺の馬 公演情報 東京演劇集団風「窓辺の馬」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    翻訳劇…その基になった戯曲を洞察し知力を加え、練り上げた脚本に視覚と聴力に訴える表現力は素晴らしかった。キャストは僅か5人。その物語は3つの時代の戦争を背景に、男3人と1人3役(母・娘・妻)を演じた柴崎美納サンの演技が圧巻であった。少ないキャストによる濃密な戦時物語は、今の日本への警鐘、いや世界に通じる普遍的なテーマとしても観応え十分である。
    時代に翻弄される人間、その悲哀・無力・滑稽な姿が舞台に立ち上がってくる。

    また、演出、舞台美術・技術(照明・音響)が臨場感を醸し出し情景が鮮明に描き出される。

    ネタバレBOX

    上演前、舞台と客席との間に欧州の古地図が吊るされており、使者が放銃して地図上を赤く汚す。上手・下手の両側にドラム缶が置かれ、上手側に街灯、下手側は上部のパイプ管から水が落ちる。

    時代が異なる3つの戦時を背景に、戦死者の悲報を知らせにくる使者。その顔は道化師のようであり役割としてはストーリーテラーといったところ。
    第1話…出征する息子の身の回りの世話をする母。気丈に振舞いながらも息子のことが心配な様子が見て取れる。しかし馬に蹴られて死亡。
    第2話…父の戦争体験を子守唄のように聞く娘。その話は戦地での恐怖を暗示するような不気味なもの。馬に後をつけられて逃れられない孤独・不安。孤独は理性を奪う。その苦悩の果ての発狂死。
    第3話…夫が戦地へ行くまでの準備、勇姿が見られるが、結局行軍中に躓き軍靴で轢殺された(ラストに数多くのブーツ)。

    いずれも銃弾という直接的な戦死ではなく、戦時という状況に殺されたかのようだ。そこに戦争の非情さが見て取れる。
    人間の最悪な不条理である戦争…その後始末に死体自動収集埋葬機なるものが登場するという。この機械的処理に対し、交わされる言葉(詩のよう)は生きている証のようである。

    脚本・演出はもちろん、舞台美術・技術はどれもが素晴らしかった。
    舞台セットは平板で骨組みした家屋内(壁は紙張り)と上手側に跳ね橋のような板。室内は食器棚・テーブル、客席寄りに旅行鞄がありその中は多くのスナップ写真、白いカーネーションだ詰められ、死を暗示するような小物。衣装は死者は白装束、白塗顔、一方生きている者は、黒も含め色彩ある服を着ている。照明の陰影、ロウソクの炎が幻想的で、その炎こそ命のようだ。また音楽はパレード、宗教曲など場面に応じて聴かせ、水の音が生きていることを感じさせる。

    劇中、ドアを閉める音が”うるさい”という台詞が何度かあるが、その騒がしさ、手の荒さこそ争いという比喩か。もっとも口を噤んで静かにしていては危険を知らせることが出来ないだろう。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/04/18 20:38

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