ザ・空気 公演情報 ニ兎社「ザ・空気」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2017/02/08 (水)

    座席N列21番

    2016年2月に起こった、高市早苗総務大臣(当時)による「放送法違反を
    根拠とした電波停止是認」発言を基としたブラックコメディです。

    ※当時の大臣側の言い分は以下の通り
    https://www.sanae.gr.jp/column_details807.html

    まさに時代の「空気」をそのまま反映している作品なので、高市大臣に当時
    賛成した人も、反対した人も一度観て、自分の考えを整理するといい気が
    します。

    ネタバレBOX

    舞台はあるテレビ局。先の「電波停止」発言に憤激した報道番組クルーが
    「戦う民主主義」を掲げるドイツを訪れ、放送法で縛られる日本の報道を
    現地のメディア人から批判してもらい、問題点を提示する番組を制作。

    しかし、日本のメディアの現況を「クレイジー」と評した部分などをめぐり、
    自殺した硬骨漢のジャーナリスト然とした先任者に代わって、数か月前から
    新しく就任したアンカーが陰に陽に修正を求めてくる。

    このアンカーですが、「政治的中立」を旨とするものの、現役記者時代は、
    ある総理候補の議員と昵懇の関係を結び、この議員が総理就任後逮捕されると
    悔しみの涙を流したと告白するような人物です。

    ところが、政権とも近いこの人物の発言に振り回される形で、実際の番組から
    日本のジャーナリストたちが政権に抗議する冒頭の場面、ドイツ人ジャーナリストが
    日本のメディアに苦言を呈する場面などの削除を求める声が、局の上層部から次々
    下ってきます。

    断固として削除に反対する者、削除には反対だが局の空気に飲み込まれかけている
    若手ディレクター、上司の顔をうかがう事なかれ主義の編集マンなど、見えない、
    そして気色悪い「圧力」を前にして、一枚岩で戦えない現状もそこで浮き彫りに。

    様々な人の思惑に苦悩しつつも、番組の編集長は一切の削除をはねのけるために
    専務の部屋を訪れるのですが…。

    実際のテレビ制作現場の様子を知らないのですが、OA前なのに、「国民の会」
    (どんな団体か、推して図るべし)から抗議が来たり、少女の視聴者を装った
    国粋勢力が内容の聞き出しに打って出たり、果ては削除に反対するスタッフに
    対し、介護中の母親の隠し撮り写真を送り付けて、圧力を加えたり。

    テレビ局に攻撃を仕掛ける側の恐ろしさと、そのしたたかさが存分に表現されて
    いると思います。これがかなりの程度本当であるなら、「中の人」の抱える
    ストレスも相当なものなんだろうなと想像せざるを得ないでしょう。

    結局、編集長は圧力に負け、高所からの自殺未遂を起こして、そのまま退社。
    3年後に局を訪れるも、編集マンは「国民の会」に加入、ディレクターは
    局の空気に耐えかねて退社、アンカーマンはすっかり政権寄りのコメントを
    繰り返す御用ジャーナリストになっていたというオチ。

    そうした光景の中で、編集長は在野のジャーナリストとして活躍することを
    誓うも、頭上から戦闘機を思わせるような音が響き渡り、すっかり戦争の
    気配がそう遠くなくなった日本の空気を暗示するように幕引きとなります。

    どこからともなく忍び寄る圧力の気配、相手に「イヤ」と言わせない雰囲気、
    局内がそんな不穏なもので充満しているという事実が、客席にいてもむんむん
    漂ってくるため、スリリングさでいったら下手なサスペンスを超えています。

    政権に賛成する者、反対する者、まずはここでのメッセージに虚心のままで
    触れ、そこから新たに思うところを育てていけばいいのかなと思う一作です。

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    2017/02/14 20:13

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