わが家の最終的解決 公演情報 Aga-risk Entertainment「わが家の最終的解決」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「会議コメディ」とは別のアガリクスのもう1本の柱、「不謹慎シットコム」。

    東京大空襲の前日を描いた『大空襲イヴ』では、主人公を含めすべての登場人物が翌日の東京大空襲を知らないまま物語は進んでいく。
    観客のみが知っている悲劇が笑いの下に流れていて、どんなラストにせよ、悲しくて強いメッセージの裏打ちがあった。

    そして今回は……

    ネタバレBOX

    今回の『わが家の最終的解決』は、ユダヤ人であることで待ち受けるホロコーストと、それを匿うことで主人公が被るであろう死が、背中に張り付いたまま進む。
    こちらは、その後、彼らがどうなるのかは観客もわからないのだ。
    この点が『大空襲イヴ』とは異なる。

    どちらがいいか、ということではないが、『大空襲イヴ』のほうが、どう転がっても悲劇なので、戦争をテーマにしたということが、きちんと伝わってきたのではないかとも思う。

    とは言え、あいかわらずテンポがいいし、知られたくない情報と顔合わせをしたくない人、そうした関係が、人ごと、時間ごとに変化して突き進む戯曲は面白い。
    1本の中心ストーリーを交差して、絡めてくるエピソードの多様さがうまいのだ。

    ただ、逆に言えば、盛り込みすぎで山場がうまく作り上がっていかない気もしたし、ガチャガチャしすぎな印象もある。

    小さな緩急と、大きな盛り上がりがうまく組み合わされば、静かなラストを演出でき、さらに最後のオチも鮮やかに決まったのではないだうろか。

    ラストで言えば、単純な「メデタシ、メデタシ」でないところが、「うまいな」と思わざるを得なかった。
    音楽でメンデルスゾーンとワーグナーの対比が効いていて、さらにワーグナーの『結婚行進曲』が使われているオペラ『ローエングリン』では、ローエングリンが自分が何者であるかを、妻エルザに告げることで彼女の前から去るというストーリーであり、このラストを暗示してたのではないか、と公演を観てからしばらくして気が付いた。
    ……そこまで意識して作ったのかどうかはわからないけど。

    ゲシュタポの黒い制服は、この時期はすでに着用禁止だったと思うのと、そもそもゲシュタポの場合、制服と私服のどちらでもOKだったはずなので(実際、上司は制服着てないし)、主人公ハンスは、私服のままでよかったのではないかと思う。

    ハンスの制服にまつわるドタバタはそれほど意外性もないので、むしろハンスの友人のどちらかが、黒い制服にこだわりがあり(着用禁止にもかかわらず好きだから着続けている的な)、彼が現れてから彼を匿っている家族から見えないようにする、さらに制服を脱がせる(太陽と北風的な)というステップのほうが、よりハードルが高くなり、面白さが増したように思うのだが、どうだろうか。

    ハンスを演じた甲田守さんだからこそ、の変な生真面目さが良く出ていたが、よくよく考えるとゲシュタポに入っていてこんなことをやっているというのは、明らかに頭がおかしい(笑)ので(愛のためとはいえ)、甲田守さんの一途さが段々不気味に見えてきた。

    逆にエヴァを演じた熊谷有芳さんは、明らかに頭の回転が早く、行動力もあるので、ハンスが何者か知っていて、ハンスの間抜けさを利用したように思えてきた。だからラストはあっさりと分かれるのは当然。

    2人が愛し合っている、という雰囲気もまったく伝わってひなかったし。

    レジスタンスの淺越岳人さんは、あいかわらずの屁理屈王だったが、ちょっと無理矢理そうさせすぎたか。

    タイトルは上手い。

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    2017/01/10 17:15

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