日韓演劇週間 Vol.4 公演情報 ストアハウス「日韓演劇週間 Vol.4」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    水無月の云々
     リーフレットによれば、このユニットはトラッシュマスターズの中津留 章仁氏が無名の役者を育てる為に立ち上げたという。2012年初演の今作は、新たなオーディションで選ばれた若手無名俳優による再演である。

    ネタバレBOX


     描かれている表層部分では、家族の話だ。それも殺人犯を出してしまった自然食品販売店の家族であり、地域商店街の家族である。犯罪者の家族という痛い差別は、何かことあれば噴出するものの、表立ったレベルでは逆に地域に支えられている。とはいえ商店街の活気は余りなく、成功者はドラッグストアチェーンを20店舗持ち、最近では駅前に大型店舗を構え売れ筋商品であれば何でも買える店を立ち上げた実力者がいるのみで、この店舗の影響で閉店する店も何軒もある。これに地域首長選挙も絡んでくるのだが、自分は、こういった側面はあくまでサブストーリーだと捉えた。この流れをメインストリームと考える人々にとって、今作は一種のサスペンスに近いかも知れぬ。
     自分の捉え方は、この家族を通して日本という「国」の人類学的・社会学的特性を描いて見せた作品だということだ。一応、家族構成と人間関係を説明しておこう。主人公は弟、嫉妬深い彼女がおり、結婚するつもりである。弟を子供のころから好いている従妹。殺された叔父の娘であるが叔父が殺されて行き場が無い為父方のこの家に同居している。母方の家に行かないのは彼女の意志だ。また叔父を殺害した兄の嫁も同居することになった。そして姉、商店街の若者と結婚を控えるが、婚約者がスナックのママとできているのではないか? と嫉妬に駆られている。それ以外の主要な登場人物は、出入りの電気屋の息子、姉の元カレ、スナックママ、弁護士、父親である。
    殺人事件については、ボランティア団体を立ち上げ、その資金を横領していた叔父が兄に刺殺されたことが、先ず明らかにされる。兄は現在服役中である。大学生の弟は、再犯犯罪者たちが何故何度も犯罪を繰り返すのかについて、脳機能の僅かな欠損による結果だと最新の医療データに基づく知見を述べ、選挙絡みの相談を持ちかけてきたドラッグストア会長と対立する。
     さらに、姉の婚約者とスナックママの浮気が絡み、弟を愛する従妹に対する弟の彼女の嫉妬が遂に爆発、彼女は従妹をとことんののしる。優しい弟は悲しい宿命を負った従妹を選び、彼女との関係は断たれる。一方、姉の元カレが、姉と共同で貯めていた結婚資金のうち元カレの分、60万を返して欲しいと願ったことに対して、姉とその婚約者は断固拒否。元カレの母親が癌で入院し、その費用の工面を願った彼の望みはあっさり打ち砕かれる。その時、父が放った言葉「興信所にでも勤めたら」がきっかけになり元カレは興信所勤めを始める。そこで入手した情報から兄の殺人事件の真相が明らかになってゆく。一方、しっかり者の兄嫁は電気屋に気があり、遂に深い関係になってしまうが、弟はこれを察知。一部始終を弟に見透かされたと感じた兄嫁は、電気屋との別れ話を持ち出すが、電気屋は兄嫁にぞっこんで別れることなどできないと逆上。台所から持ち出した包丁で弟を刺殺してしまう。これが、この物語の大筋である。無論、救いなど一切ない。
     初演が2012年だということからも、今作が福島人災の翌年、我々が、この「国」の在り様を根底から考えなおしていた時期と重なるだろう。そして民主主義なるものの根底をこの「国」の人間が担えるのか? という根本的な問題についても考えざるを得なかったハズである。
    それは自分の頭で考える自由についてであり、その結果理不尽が明らかになった時に、キチンと異議申し立てをしなければならないということについてであるはずだ。一例を上げるなら、東電がゴルフ場に降り注いだ放射性核種の被害について「無主物」で法的責任はない、と言い張った時、我々は何を思っただろうか? そして、今また経産省が核燃サイクルを新たに立ち上げようとしているが、この動機は明らかだろう。日本が大量に保有するプルトニウムを持ち続ける為のエクスキューズである。
     閑話休題。今作はヒトという生き物が作る社会、個々人、それを繋ぐ単位としての家族を通して、我ら日本人の特性を炙りだしている。即ち事大主義とプリンシプルの欠如を。そしてこれら無しには成立し得ない民主主義を恰も真っ当に成立してでもいるかのように振る舞う欺瞞を告発しているのだ。

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    2016/12/05 02:34

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