「よかった。」 公演情報 劇団振気楼「「よかった。」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    アンヴィヴァレンツ
     タイトルの”よかった”は、吉田という空気の読めない男の発する科白から来ている。約40分の短編である。

    ネタバレBOX


     舞台は、社会福祉の講義を取っている学生5人が所属しているサークルでの話だ。5人の内訳は男3、女2である。女のうち1人はとてもナイーブで傷つき易い。また、吉田と呼ばれる男は、空気が全く読めず、為に小さな頃から己を否定され続けてきていて、他人からは一段格下に観られている。無論、このことを根に持っているから、コンプレックスが非常に強い。冒頭、皆が集まって話をしている時に、何故「福祉」を選んだのかを話し合う機会があったのだが、他の者は皆それなりの合理的な理由を述べたのに対し、吉田だけは吠えるような大声で叫ぶ。この異様な様で、彼のコンプレックスの深さ、異様が分かる仕組みだ。その後、飲み会のあった翌日から、ナイーブな子が授業にもサークルにも訪れなくなり1週間が過ぎた。皆が心配していると漸くやってきた彼女は、原因を話すことになった。それによると福祉施設を襲って凄惨な殺傷事件が報道されたのを見て、自分が関わろうとしている福祉施設で暮らす人々が晒されている偏見などの状況を知るにつけ、果たしてこのまま、この道を歩いてゆくことが出来るのかや、もしまたこのような事件が自分の関わる施設で起きたら、と考えて悩んでいたのである。気分転換に皆でカラオケに行くことになったが、吉田だけは、傷口に塩をすり込むような言動を取り、彼女はまたsふさぎ込んで泣き出してしまった。その後、彼女は吉田の立場をフォローしようとするが、逆にそれを自分を馬鹿にしていると感じた吉田はパニックを起こしてしまう。暗転後、頭から毛布を被ってごろ寝をしている吉田に電話が入る。そこで吐いた吉田の科白がタイトルになっている。
     福祉サークルのメンバーの中でも苛められている吉田。この構図が太い縦軸。苛めているのが福祉に携わろうとしている人間であることは無論アイロニーである。
     然し、メンタルケアも要する福祉の現場で施設収容者の様子や状態から何も読み取ることができず、間違ってはいないものの、世間で言い古された一般論を盾に自らの真の観察を隠し、患者を傷つけるような言辞を平気で弄するようなキャラクターが、福祉士としての資格を持つとしたら? という問いかけも含んでいる点は見逃せない。
     この辺りの事情を読み違えるとアンヴィヴァレンツに陥るという問題も提起していて興味深い。それは当に現在我々が向き合っているF1人災のようであるのだから。

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    2016/09/13 16:10

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