厚い雲に覆われた光 公演情報 演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ)「厚い雲に覆われた光」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    熱い篤い母に蓋われた娘・光のような
    地震津波の被害を思わせるような瓦礫の数々。その中央に防波堤か避難所のような上にセーラー服の少女。突然サイレンが鳴り響き...暗闇に懐中電灯の光が二筋照らされる。その異様・不気味な雰囲気が場内を覆う。

    この地震津波は、1993年に起こった北海道南西沖地震(別に「奥尻島地震」とも呼ばれる)をイメージした。奥尻島を中心に、火災や津波で多くの死者、行方不明者を出したという。

    この公演は、地震津波という悲惨な状況を背景にしつつも、この島にいる普通の家族(特に母と娘)の関係を濃密に描いた物語と言える。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    川内家という被害者家族を中心に物語は展開する。震災の前後で心や生活状況の変化を、普段使っていた家具、雑貨、漁業具などが波に流され、打ち寄せられ瓦礫が荒んだ様子を映しだす。

    震災前...母(山素由湖サン)は娘・光(岡野真也サン・高校生3年生)を島内で生活させるため、自分が勤めている缶詰工場へ就職させようとしている。娘は進路目標を定められずにいた。母の束縛から逃れたい、島の生活という閉塞感から開放されたい。母はさまざまな仕方で縛り、娘は母の呪縛から逃れようとする。縛り縛られする母娘の情景を濃密に描く。この母娘の日常を震災の前・後の視点で交互に描く構成で物語は進む。母から逃れるには母が死ぬのを待つほかない。もっと言えば母の死を願うような...そして震災で母が亡くなる。

    母の死によって確執は無くなり、自由を謳歌できたかどうか。娘を思う気持が重圧であったが、それさえも思い出になるようで心が痛むようだ。
    そして震災を通じて人の心に宿る怠惰と悪事というダークな側面を抉り出す。それが、震災による国家補償を当てにすること、災害(火事)場泥棒や詐欺行為。それらの人間模様が物語に厚みを加え、さらにこの娘を巡る女友達の友情、男子学生の純情、高校教師や警察官というお堅い職業(公務員)の恋愛感情がアリアリと窺えるコミカル笑いのシーン。

    随所に母・娘の本音がぶつかる。怒り暴言を吐き、頬を叩き精神的に追い詰める母。娘のために人生を捧げるような言葉...その緊迫した台詞の応酬が見事であった。もちろん、光の兄・一男(奥田努サン)の飄々とした ぐうたら姿も愛嬌あり。キャスト全員がキャラクターを立ち上げ、バランスも良い。

    ラスト...場内出入り口近くにハシゴを架けるシーンは何を意味するのだろうか。閉塞感、そこからの脱出の経緯を表現したのか。穿った見方をすれば、閉じ込められて亡くなったのは娘・光のほうであった。自由は儚い夢だったのか。この敢えて描く必要があったのだろうか...。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/08/06 21:30

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