『不眠普及』/『止まらない子供たちが轢かれてゆく』 公演情報 キュイ「『不眠普及』/『止まらない子供たちが轢かれてゆく』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    『不眠普及』
    新しい才能に出会えた
     ……のかもしれない。

    なんとレベルの高い創作なのか。
    60分少々の公演なのに、驚いた。

    ネタバレBOX

    不眠というのは誰もが体験したことがあるものなので、それに対する個人個人の感覚は違うものではないだろうか。

    同じなのは、「眠れないことに“焦燥感”を募らせる」ぐらいか。

    覚醒と睡眠は、薄いベールで隔てられている。
    いつの間にかそのベールを越えて眠りに落ちているのがほとんどだろう。
    「眠れない」と思いつつも、うつらうつらしながら実は寝ていることは多々ある。
    「眠れない」という人が、今さっきまで寝息を立てていたのを知らずにいることもある。

    舞台の上では眠れない苦痛が延々と続く。
    3人の役者は、主人公の頭の中の声と、夢うつつと、現実とが混在していることを表している。
    舞台の上のカーテンと糸ベールをくぐり抜け、意識の深いところと浅いところを行き来しているのだ。

    その混沌具合が、いかにも「眠れないときに無闇に考えてしまうどうでもいいこと」に思えてくる。
    その「どうでもいいこと」が次々と頭に浮かぶから、頭がより冴えて眠れなくなる経験をしたことがある人も多いだろう。
    そうしたイライラが、舞台の上にはあった。
    自分の頭の中の混沌を表現する戯曲と演出が巧みだ。

    自分の声が頭の中で聞こえているのは、夢なのか現実なのかもわからなくなる。
    夢の中では、自分の姿が見え、過去にあったりなかったりしたことを見ることがある。
    まるで回想シーンのように、だ。
    珈琲を引いたり、洗濯物を干したりという日常の情景も挟んでいるが、それも夢の中なのかもしれないのだ。
    そう考えると「眠れない主人公」は本当は眠っているのかもしれない。
    「感染」とか「宗教と思われて迫害」などという荒唐無稽さがそれを示しているようにも感じる。

    この作品はまるで「小説」のようだ。
    最初はリーディング公演の印象すらあった。
    文字を読んだほうが、イメージがより膨らみそうである。

    しかし、すべての戯曲が「文字を読んだほうが、イメージがより膨らみそう」と感じないのはなぜなのだろうか。
    それは、舞台の上のほうがより「リアル」であるということ、つまり「意味」に近づいていると直感的に感じているからではないか。
    戯曲を文字で読んでも面白いものが、舞台の上でさらに面白くなるのは、生身の人間が演じて見せて(説明して)くれている、という単純なこともあろう。
    そのリアルさが文字に命を吹き込み面白くなる。

    演出家の力で、読者の頭の中に広げられたイメージよりも、より説得力というか納得度が高くなっているのではないか。つまり、「戯曲を読んだほうが面白いのではないか」とはその時点では感じさせない。

    しかし、この作品を観ながら思ったのは、「文字で読んだら面白いのではないか」「文字を読んだほうが、イメージがより膨らみそうだ」ということだった。
    ただし、それは「舞台の上よりも“本当”は戯曲のほうが面白いのに」ということではないような気がする。

    今回の作品は、戯曲としての面白さを、舞台の上で面白くすることで、さらにその先の、まるで一周回ったように、「文字の面白さ」を意識させたのではないかと思う。

    役者と演出が「戯曲の文字の面白さ」を伝えているのではないだろうか。
    それだけ戯曲のレベル、演出のレベルが高く、役者も上手かったのではないかと思うのだ。

    ただ一点、これはとても大事なことなのだが、「眠れないから毎日男と寝る」という設定の納得度が低すぎた。ストーリーを進めるためだけに無理矢理そこへ持って行ったとしか思えず、そこへの道筋をもっと丁寧にストーリーの中に徐々にでも織り込んでほしかった。それがどんなに理不尽なものであっても、無理矢理でも観客を説得してほしかった。「(読書や映画など)の文化系のことが不得意なので」という主人公の設定1つだけではそこは突破できないと感じた。そこが残念。

    まあ、それも「夢の中だから荒唐無稽」というのであれば、仕方がないのかもしれないのだが。

    最初は鶴田理紗さんの強さがとても好ましいと思ったのだが、徐々に坂倉花奈さんと新田佑梨さんの良さも現れてくる演出で、3人もとても良かった。

    『止まらない子供たちが轢かれてゆく』にも期待したい。

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    2016/06/30 08:23

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