満足度★★★★
官能とは想像である
「ここがわからないと物語の流れが分からない」部分がすべて外されたジェンガのような作品。観終わっても、フラストレーションが解消されずにもやもやが残る。でも、実社会でも、どう考えても不倫しているけど証拠だけがないとか、付き合っていたことをおくびにも出さずある日突然社内結婚して周囲の度肝を抜くカップルとか、なぜかものすごい嗅覚を持っていてみんなの秘密を全部知ってる地味系女子がいたりする。それくらい、人間のエロティックな部分は謎に満ちていて、明かされない。だから、この物語のあらすじが全部わからないのは、ある意味で当たり前なのだ。官能は想像すること。もっと知りたいと思うこと。わからなくてじれったいと思うこと。それこそが、喜安浩平のつくりたかった世界なのではないか。そう考えると、この『スケベの話〜オトナのおもちゃ編〜』は、きわめていやらしい遊び心に満ちた、タイトルどおりの作品だったように思う。
しかし節度を感じたのは女優陣の品の良さである。色っぽさを全面に押し出す場合、いやらしさが鼻について興ざめすることがあるのだけれど、そうならないギリギリの、まさに果物のいちばんおいしい部分だけを並べたような、ため息が出るほど美しく制御された演技だった。
舞台はいつの時代か、どこの国かもわからない軍隊の上層部の話。軍の中での駆け引きは、忍び寄ってくる戦争のため……? そんな時でも愛欲を捨てられない人間のどうしようもなさ。ナンセンスなコメディに見せかけて、実は人間の業の深い深いところに、タッチしようとした作品ではないだろうか。