保健体育B【終演しました!ご来場ありがとうございました!】 公演情報 20歳の国「保健体育B【終演しました!ご来場ありがとうございました!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    幼い恋と性を描く群像劇に、直球のメッセージ
     劇場ロビーが照明でピンク色に染められていて、駅前劇場が何やらちょっと怪しいムード。物販ブースでは過去公演のDVDを販売中。売り子さんも客席案内の方々もガクランとセーラー服を着て、雰囲気を盛り上げてくれていました。
     劇場に入ると奥と手前に客席があり、ステージを二方向から挟む舞台美術でした。私は劇場入り口に近い方に着席。聞き覚えのあるJ-POPが流れ、ミラーボールが回り、ピンク色と青色の照明がステージを照らします。ステージには段差があって、なんだかお立ち台があるクラブみたい。

     高校生同士、教師同士、高校生と教師の恋愛、高校生と社会人との不倫などを描く元気いっぱいの恋愛群像劇でした。ピロートークは本音がモロバレするから(笑)スリリングで面白いし、覗き見の楽しさもあります。雰囲気に甘えて濁したりせず、浮気がばれた時の修羅場もしっかり描き、会話も結末まで書き込んでいることに感心しました。“恋人に会えない寂しさを紛らわすために他人と寝る”という安っぽい恋が、ただの愚行ではなく、愛らしく見えるのも魅力です。ただ、テーマを恋愛に限定しているからか、遠い過去や未来、さまざまな人生などを想像させるような、底力や飛躍力のある戯曲ではありませんでした。

     昔、シャ乱Qの「シングルベッド」がヒットした時に、あるベテランのミュージシャンが「シャ乱Qのような風俗っぽい路線は売れる」といった意味の発言をしていたんです。演歌と流行歌の間というか、軽いノリとウェットな感覚が、幅広い層に受け入れられるのかもしれません。『保健体育B』というタイトルも、男女の甘酸っぱい恋愛ドラマも、そういう親しみやすい路線を狙ったゆえなのかなと思いました。ただ、エッチさはとんがってました(笑)。乱暴な言い方かもしれませんが、“青臭い、愛のある、ポツドール”という印象を持ちました。

     作・演出・出演、そしてプロデュースをされている竜史さんは、範宙遊泳の山本卓卓さんやロロの三浦直之さんとほぼ同世代だそうです。「好きなものを作る」だけでなく、周囲を見て作戦を練って、どんな演劇を作るのかを選んでいらっしゃいます。やはり若い世代には賢い方が多いと思いました。インターネットがインフラ化し、手のひらにある端末でいつでも世界にアクセスできるようになったからでしょうか。これからも若い方々からどんどん学んでいきたいと思います。

    ネタバレBOX

     ※引用したセリフは正確ではありません。

     性描写が生々しい現代劇で、俳優が舞台でそれを披露するところが、ポツドールに似ていると思います。たとえば暗転して劇場全体を真っ暗闇にして、複数カップルのいわゆる愛撫から絶頂までのセックスを、たっぷりと聴かせるシーンがありました。明転したら、暗転前の相手とは違う相手と睦み合っているのも、作風としてはポツドールと重なるかもしれません。でも、セックスを“虫の交尾”のように本能的、動物的なものではなく、人間同士が一対一で心を通い合わせるものとして描いているのは、ポツドールとは大きく違いました。

     抱きしめてお互いの存在を確認する場面(育美「タケルだー」タケル「俺だよ」)ではプラトニックなスキンシップとしてのセックスが描かれていました。親が赤ちゃんをだっこするのと同じですよね。「好きって言うことも、言われることも、最高のことだよ」という女子高生のセリフは、嘘のない本気の愛の告白の喜びを肯定しています。「ちゃんと人に踏み込まないと、幸せになれない」と気づいた教師が、「旦那さんと別れて僕と一緒になってください」と同僚の女性教師に告白する場面は、正直な気持ちをあらわした言葉の力を信じる、ストレートな人間賛美とも受け取れました。私は人間が変化する瞬間を描く演劇が好きなので、この場面は特に印象に残りました。

     舞台でなぜか突然踊り出すのは、第三舞台(今は虚構の劇団でしょうか)や演劇集団キャラメルボックスみたい。ちょっと懐かしくもあるし、微笑ましくもありました。ラジオ体操をハード目にしたダンスは観ていて楽しかったです。
     劇中で使われたBARBEE BOYS「目を閉じておいでよ」、モーニング娘。「抱いて HOLD ON ME!」は私(40代)が昔、カラオケでよく耳にした曲です。今はネット検索で時代や地域を超えて音楽と出会えるので、最新のヒット曲と同列に扱われるんですね。私が親しんだ“ナツメロ”という言葉は死語なのかもしれません。勉強になります!

     高校生役を演じている俳優は20代以上の大人ですから、到底17歳とは思えないこともありました。例えばタケル(斉藤マッチュ)の「俺ら17だよ、そりゃ他の誰かを好きになったりするよ。お前(育美)はどうしたいんだ?」という意味のセリフ。あんなに冷静かつ真剣に恋人と向き合って、それでいて彼女を優しく包み込むように話せるのは、17歳男子じゃできないよなぁ~(笑)。10代の男子ってたいてい同年齢の女子より幼いものですしね。でもそれがおかしい、悪いとは全く思いませんでした。演劇の嘘をあえて楽しむこともできますし、高校生の恋愛を大人の恋愛と重ねて二重に味わうのも面白いです。

     ただ、大人の俳優が制服を着ることで高校生だと観客に示す演出なので、教師たちの年齢がわからなかったのが残念。たとえば20代中盤なのか、40代なのかで、夫婦の関係性や、女子高生と男性教師の年齢差などから見えてくるドラマが変わります。「観客がどのように受け取ってもいい」という意図で敢えて余白を残したつもりが、伝える情報が足りないせいで誤解を招いてしまう(真意が伝わらない)という結果になるかもしれない。そこのところは脚本も演出も、もう少し詰めていただきたいと思いました。

     開演直前に3人の学生服姿の俳優さんたちが、マイクを持って元気に歌を歌いました。あれは“カラオケ”だったのかしら…。私は下手な歌はなるべく耳にしたくないタイプの観客なので、人前で下手でも歌うなら、下手だからこそ成立するように演出してもらいたかったです。もしかしたら前座的な、力を抜いた余興だったのかもしれませんが、私は装飾されたロビーからつながるお芝居の導入部として、重要な場面だと思いました。俳優がうつむいて歌う意味もよくわからないくて…観客の顔を正面から見られない未熟な俳優だからなのか、そういう演出意図なのかと、歌が終わるまでずっと考える時間になってしまいました。

     私は近年、特に俳優を重視するようになっています。今作では舞台上にいる人たちの姿勢が悪いことが気になりました。役人物の姿勢が悪いのは、俳優自身の背中が曲がっているからであって、演じる役柄の個性として、あえて背中を丸める演技をしているようには見えませんでした。俳優さんには普段から心身の訓練をしてもらいたいですし、演出家にも意識的になっていただきたいです。服を脱いだ男優の体が鍛えられていたのにはホっとしました。「だらしない体はダメだ」なんて一刀両断するつもりは毛頭ありませんが、作り手の方々には“俳優の身体は観客に見せるものである”という自覚を常に持っていて欲しいと思います。

    0

    2016/05/17 13:21

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大