わが家の最終的解決 公演情報 Aga-risk Entertainment「わが家の最終的解決」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    希望と絶望が織りなすノンストップ・コメディ
    新たな名作の予感!
    ナチスドイツの占領下のオランダを舞台に、ゲシュタポの青年が、自分の正体を隠しながらユダヤ人の恋人をかくまっていることで巻き起こる、ホロコーストを背景にしたシチュエーションコメディ。
    シリアスな題材なのに、劇場は爆笑の渦。
    笑いの中にも悲しみが、絶望の中にも希望があって、笑いと涙で翻弄されるけど、観終わった後、残るのは大きな満足感だった!

    ネタバレBOX

    ゲシュタポの青年ハンスと、ドイツから呼び寄せた使用人のアルフレッドの、いかにもシチュエーションコメディっぽい始まりからの、オープニング。
    不鮮明な、白黒の記録写真(?)の映像をバックに流れる、ワルキューレと結婚行進曲のアレンジが、観客に、あの事実を突きつけ、逃げ場のない設定に追いこむ。
    ここで、もう、勝負があった気がする。

    そこからの1幕目、登場したヒロインのエヴァが、ウェットでないのがまた良くて、熊谷さんの、大胆さと爽やかさと可愛らしさがとても良かった。
    一緒に住むことになったエヴァ父の藤田さんの頑固さとキュートさ、エヴァ母の前田さんの優しさと母親らしい鋭さが魅力的で、安定した演技力が物語を支えていたと思う。
    そして元カレのおもしろさと巧さ・・・津和野さんの集中力はすごい。つい、表情を追ってしまった。

    ハンスの姉の、鹿島さんの、さっぱりしているけど、洞察力が鋭いところが良かったし、姉の夫の、伊藤さんの細かくてちっちゃい人物像が私的にツボだった。
    そして、レジスタンスの男、淺越さんが、屁理屈を言い出すと、「キターーー」と心で叫んでしまう。

    たびたび苦情を言いに来る隣人のヘルマン夫婦。こんな状況なのに、夫の悩みがまたおかしい。山田さんは、気弱で可愛い夫だった。沈さんの、実年齢よりずっと上に見える、妻のサンドラのイライラ感は見事だった。

    ここで語られる重要なハンスの思いと、ドイツ大使館勤務の義兄の主張との対比も、おしつけがましくなく提示されて良かったと思う。

    2幕目は、ハンスの同僚の友人が訪ねてくる場面で、ここは、勘違いや嘘、ごまかしが炸裂して、もう、ホロコーストもの、ということも忘れてただただ笑いの渦に巻き込まれる。
    友人、ルドルフの塩原さん。前々から、(良い意味で)狂気を秘めている感じがしていたけど、今回、クレイジーさが炸裂。制服姿が格好いい、という声も多し。
    同じく友人のカールの斉藤さんは、いつも爽やかな風を巻き起こす。可愛らしさがあって、軽いタッチの演技が明るい笑いを生み出すところがいい。
    ハンスに恋をしているリーゼの榎並さん。可憐の一言だし、偏見がない人物像がよく出ていた。

    山岡さん演じる、娘思いで、どこか優しさも感じさせるハンスの上司が登場してから、事態はシリアスになっていって、ハンスも窮地に立たされた後、どうするのかな・・・と思っていたら、なるほど、そういう手があるか!と思った。
    最後のハンスとエヴァのシーンは、切なくて涙を誘われた。

    ゲシュタポに所属しながら、ユダヤ人の恋人を助ける、ということを観客に納得させるには、甲田さんの無垢で優しいキャラクターが生きていたと思うし、物語の結び目になる、使用人、アルフレッドは、全編に渡って、もう、八面六臂の活躍で、矢吹さん、お疲れ様です!と言いたい。

    3幕目、終戦後。
    このエピソードがアガリスクがアガリスクたるゆえんで、秀逸だと思った。
    ハンスとエヴァの恋の結末も、そうなるだろうな・・と、納得いくし、胸に切ない思いが残る。立場が変わった歴史の皮肉も示されて、ここは、映画「ブラックブック」のオマージュかな、とも思った。
    そして、最後の大オチ・・・「まいりました!」と思ったし、ホロコーストVSコメディの確固たる勝負がついた瞬間だったと思う。

    アガリスクエンターテイメントの、「悲劇を悲劇で終わらせず、喜劇に転じさせることができるか」という、果敢な挑戦は、成功に終わったと私は思う。

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    2016/05/12 13:05

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