Hit or Miss 公演情報 メガバックスコレクション「Hit or Miss」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    脚本・演出は良かった…
    4月は入学シーズン...小学校の新1年生の心細さ、親に引かれた手を離して他人の中に入っていく幼子も試練をくぐり、親も手を差し伸べるところをグッとこらえる覚悟が必要。その親子の距離は永遠の難問であるが、その距離こそが自立の証と思えば心強い。
    この公演では、その親子(父・娘)、というよりは自立した人間同士の魂の咆哮のようである。

    冒頭は、古典的なフィルム・ノワール(退廃的な犯罪画)のように、善・悪という鮮明な対立軸で描かれるような感じであったが、そんな単純な捉え方ではなく根底には人の幸福...特に経済的な貧富の知覚が絡むもの。描き方は、表面をなぞる空っぽな表現から段々と訴えたい本質に迫る、その展開が実にシャープにしてスリリングである。そして最後まで観客(自分)に予想をさせない、むしろ予定調和ではなく予想外な展開に驚いた。怒涛のラストシーンには高揚し鳥肌が立った。

    ネタバレBOX

    誘拐というシチュエーションであるが、今まで観たメガバックスコレクションの緊密した状況・空間は感じられない。どちらかと言えば、社会的な問題の提起のようだ。しかし、そこはこの劇団の特長…日本の問題として、直截的に描くのではなく、一定距離を置くような客観的な観せ方にしている。

    物語は、アメリカ大企業の社長と幹部社員2人(男女)が誘拐されて監禁されているところから始まる。そしてあっさりと犯行グループ「ボス」の正体が明らかになる。それは何と社長の実の娘だった。
    その要求は、誘拐の実行犯となっている2人(男女)の①祖国における幹線道路計画の撤回。②病院と学校の建設。③それに係る重機の提供と資金援助の3項目である。
    娘はその国に2年間留学し国情を把握しているという。乱開発による貧富の助長など、問題の深部を説明する。
    一方、父親は娘の要求を受け入れるが、一度富という蜜を味わうことによって、欲望という原動力が国の発展を促すこと。それは知らないという無知覚からの脱皮が大切である。この父・娘の会話(応酬)が心魂揺さぶるほど見事である。

    話の展開には途上国の発展という名目で希少資源の採掘、幹部社員の裏切りなども盛り込まれるが、そこは話の魅力を豊富化するようなもの。
    日本の経済援助(ODAのようなもの、本公演は私企業である)も感じられる。物質的な援助が中心であったが、その後の人材育成などのソフト面の充実が言われている。自分たちで考え行動する姿勢が大切であると...。なお、舞台の設定をアメリカにしているところに妙がある。なにしろ、アメリカは日本の援助形態より幅広いこと、距離を置いて客観的になれるのだから。
    夢と現実の間の軋轢は、やがて深い哀切を漂わせる。そして、鎮魂の思いへ偏重していく見事な内容であった。

    さて、気になるのが役者の力量差(端的に言えば、キリマンジャロ伊藤サンと他の役者)が大きいこと。脚本の論理性と現実とのギャップを見事に突く。それを芝居という仮社会の中で表現させる素晴らしさ。しかし、それをしっかり体現しきれないところが残念である。

    次回公演も楽しみにしております。

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    2016/04/30 13:06

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