ぼくの好きな先生(再演) 公演情報 enji「ぼくの好きな先生(再演)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    嘘(エイプリルフール)では済まされない現実の問題【松田るかバージョン】
    春の季節、わが子の成長を待ち望む親心はいつの時代も変わらないだろう。その節目が卒業や入学ではないだろうか。子の成長に伴い、見守りから監視という受け止めに変わり、反抗・疎遠という一時期を経て、子も自らも親になっていくことだろう。この公演は、6年ぶりの再演ということであるが、作・演出の谷藤太 氏には感慨深いものがあるようだ。
    自分は、第18回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」の授賞式(2016年3月28日)に出席したが、その時の受賞作品「ソロモンの偽証(事件編・裁判編)」を思い出した。この賞は、2015年度に発表された、映画、TVなどのすべての映像作品の脚本の中から脚本家が選出するもの。今年は真辺克彦 氏が宮部みゆき原作を脚本化し映画上映されたもの。すでにネタバレかもしれないが、内容テーマは「いじめ」である。

    その「いじめ」は学校の時だけではない。社会人になっても「パワハラ」「セクハラ」「モラハラ」など言葉が多肢になるほど深刻さを増す。しかし、この公演では、別の角度で見せるなど、転換した視点が面白かった。

    ネタバレBOX

    この劇団の特長であるが、舞台セットをしっかり作り込み、印象付ける仕掛けもある。今回はタイトルの言葉にもある「先生」から、壁面をほとんど本棚で囲い、中央に座卓とテーブル、上手にベット、下手にハンガーが置かれている。空スペースに映画などのポスター、「いまを生きる」「コルチャック先生」、そして銀河鉄道の夜をイメージするもの。
    中学教師・河合優(千代延憲治サン)、その部屋に居る学生服を着た馬場翔太(松田るかサン)の2人が主人公のようだ。ストーリーテラー的には中学教師であるが、この学生服の少年の言動が「いじめ」という問題の本質を抉るシーンに心が痛む。

    この中学教師が尊敬するジョン・キーティング先生(いまを生きる)、ヤヌシュ・コルチャック、アニー・サリバン、宮沢賢治と妹トシ、坊ちゃん(小説に名前はない)が、始めは世界教育者会議参加のため架空世界や時空間を越えて登場する。そこで中学生・馬場にいじめ談義をする。しかし、少年の心は氷解することなく、逆に各先生の問題を暴き出す。実は、この少年は既に亡く(この中学教師の同級生で中学の時自殺)なっており、この中学教師が親友であったにも関わらず助けられなかった、という自責の念が生み出している妄想(亡霊)である。

    この既に亡くなったという設定(「ソロモンの偽証」も自殺した生徒の呪縛)は、見たことがあるものであるが、そこに直接関係のない”ぼくの好きな先生”たちが登場し、それぞれのスタイル(例えば机⇨テーブルの上)で諭そうとする。「いじめ側」と「いじめられた側」という両面だけではなく...解決策が見つけられない難しい課題を、今実在しない人物の言葉を借りて問題提起する。それは観客である自分に投げかけられたものとして受け止めた。あくまで、そして敢えてコミカルにテンポよく、(表層的に)見せることを意識した公演であった。
    それでも、セットの仕掛けという見せかけの奇抜さもよいが、出来ればもっと各先生との突っ込んだ話し合いを聞きたかった。

    ラスト、自殺した中学生が未来の自分にあてた郵便物。それを持って訪ねてきた父親の慟哭。生きている時の親子の距離は永遠の難問であるが、亡くなってからの距離は縮めることができないだけに悔しい、その思いがよく現れていた。

    気になるのが、河合先生が同僚の田中光一先生(橋本裕介サン)に諭す。かつて自分がいじめたであろう、友人に謝罪の電話を掛けたり、手紙を出す、または直接謝って回わらせる。たしかにいじめた側はその行為を忘れているかもしれないが、いじめを受けた側は忘れはしない。しかし、いじめる側はいつもいじめる側なのだろうか。いじめられた、だから今度は自分が弱いものを探しいじめる。そのいじめという不幸の連鎖になっているのでは...。そう考えた時、謝罪を通して受けたいじめの思い出(傷)は、何故自分だけが、という歪な感情に捉われないだろうか。そういう感情は了見が狭いのだろうか。この公演では理想形のようであるがきれい事のようで、今ひとつ真に感情移入出来なかった。

    役者陣の演技は素晴らしく、そのキャラクターがしっかり確立していた。なお、何かで松田るかサンは初舞台とあったが、コミカル、シリアスな演じわけが実に魅力的であった。

    因みに、偶然であるが「いまを生きる」は、アカデミー脚本賞(1989年)を受賞している。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/04/02 18:53

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  • コメントありがとうございました。

    2016/04/03 09:56

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