「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。 公演情報 メメントC「「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    弱者の痛み 必見
     タイトルからして如何にも戦争の持つ錯綜した情報のアイロニカルな性格、敵味方の悪意を、そして本当の所は誰にも分からないという混乱が、弱者に与える皮肉な結果を示唆している。

    ネタバレBOX

    舞台は蒋介石軍が首都と定めた南京陥落前夜から、南京に駐在した外国人特派員が本国に逃れた後、日本軍が蛮行を犯し、ハーグ陸戦条約に違反したとして告発。日本は欧米列強の非難の的となっていた。その対外処理を急遽委託された為、宣撫部隊中尉、田之倉が半年遅れで赴任し実際には何があったのかを調査した期間に纏わる物語である。
    主要登場人物は、特務機関員・宣撫部隊中尉、田之倉 肇、田之倉が住むことになった屋敷の本来の主人であり、東京帝大に留学していた経験を持つ中国の経済学者、林 英呈、従軍僧を装うが、実は陸軍参謀本部のスパイをも務める林田の3人だ。
    林の兄は、蒋介石の側近、南京陥落直前に蒋と共に南京を脱出した。英呈は兄の命により、家を守り血統を守る為に南京に残った。これは、中国の家族制度とも関わりのあることで、長男の権威・権力は絶対であった。
    今作は嶽本 あゆ美氏が、堀田 善衛の「時間」をベースに作劇した作品である。登場人物のキャラクターは、原作と今作シナリオではかなり変えてあるとのことだ。無論、堀田氏のご遺族の許可を得てのことである。だが、最も大切な点は、原作でも演劇台本でもこの日記の作者に中国人を据えていることである。即ち、攻撃した側ではなく攻撃された側、弱者の痛みにその視座を据えているのである。その為、戦争という虚偽の氾濫によってカオスと化す状況に、痛切な人間の痛みという視点が鼎立されているのだ。この視座によって、今作は、人間芸術としての普遍的位置を獲得しているといっても過言ではない。
    更に、林の妻の妹、周 茉莉は、日本兵に襲撃されて生き残ったものの、集団レイプで受けた魂の傷は彼女の生涯を葬ってしまうほどの傷を与えたばかりかレイプが原因でうつされた梅毒の痛みを抑える為にアヘン中毒に陥る様、それを克服しようと懸命に努力する姿は心を撃つ。
    演技では、先に挙げた3人の役者の演技が秀逸であった。ぜひ、見ておきたい舞台である。

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    2016/03/19 02:09

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