満足度★★★★★
最低2回は観て欲しい作品
とても重くて暗いテーマで3話構成のオムニバス形式のお芝居でした。
本来、シリアスで生死がテーマのストーリーはとても苦手で、正直言うと好きな劇団じゃなかったら観なかったかも知れません。(ただの暗い重いだけでもない素敵な作品でした)
以前母親から「死刑の執行は刑務官のストレスを軽くする為に、いくつものボタンがあって、そのボタンを数人が同時に押す」と聞いたことがありましたが、縄と共に実際にボタンの付いた壁を見てまさに「自分の目の前に存在するもの」への恐怖を感じました。
1話では刑務官といえども人間であり、人間でいようとするジレンマのようなものが凄く伝わってきました。
2話ではコメディ調で電気工が点検に来たという設定で執行部屋とその真下の部屋の構造など、刑務官が説明するには不自然になる死刑執行にかんする情報を分かりやすく伝えてくれたと思います。
3話では話しが少し遡って死刑囚の生前の出来事がメインでした。
犯した罪としては決して許される内容ではないけれども、三塚という人は間違いなく人間でした。
とても辛い環境におかれると人は自分を守る為に「自分じゃない自分」を作り出すことがあると言います。
記憶を消したり、他人事として区別するんです。
そうすることでしか自分を受け入れられなくなります。
それをとてもリアルに小林エレキという役者は演じてたと感じました。
自分からはあまり話しかけないけれど、話しかけられれば反応は出来る。
多少不器用だけど普通の人にも見えるのに、時々凄く狂気染みた目をする。
全てを受け入れたはずなのに生きる楽しみを持ってしまっている葛藤、自分ではどうにもならなくて小栗課長にすがる姿は涙が止まりませんでした。
また、小栗課長の貫禄は在るけども柔らかい言葉遣い、懐の深い感じや人間みんなに対する平等な優しさ信用する姿勢に本当の強さを感じました。
そして一番怖いと思ったのは新人?のヤタベさんでした。
単純な善悪だけで言えば正義の立場にいるはずなのに、人を憎み信用できず自分の中の正義が強すぎる。人間の本質を考えさせられる役でした。
後半は全てがレイヤーのように重なっていって怒涛のエンディングを迎えます。
観劇直後の衝撃はもちろん、その後の余韻がずっと重い石が乗ったようにずっしりと続きます。
椅子や天井の閉まる音、ノイズもとても効果的でずっとドキドキして観てました。
2回観ましたが、まだ足りないと思える作品です。