ユーカリ園の桜 公演情報 BuzzFestTheater「ユーカリ園の桜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    演劇という文化の中に社会問題を取り込み
    「さしのべた その手がこどもの命綱」...その標語が見えるポスターが舞台中央に貼られている。この公演は、前半の軽妙、コメディという観せ方から、後半は重厚、シリアスな展開へ大きく転換する。その落差は大きく印象付ける物語。もっとも前身のTEAM BUZZから得意としているコメディ路線とシリアス路線を融合した作風を追及することにしているのだから、当たり前の脚本・演出なのかもしれない。

    さて、この劇場は座席が列間および隣席とが密接であるため、仮に中央に座った場合、身動きが取れない。前作の「ストリッパー薫子」でもそうであったが、開演ぎりぎりまで集客する(劇団とすれば当たり前)。当日券でも観たい客には嬉しいが...。「ストリッパー薫子」の時は、舞台ぎりぎりに座布団を敷いたが、今回は両サイドに増席していた。開演時間遅延に関するお詫びも前作と同様...何か工夫できると良いと思うが(人気劇団の悩みといったところか)。

    それでも観客に対する対応は親切・丁寧である。座席への誘導はもちろん、座席下に桜型の敷物があり荷物汚れへの配慮、トイレから出てくる人へのハンカチ提供等々。この気配りが観客(自分)にしてみれば、気持ち良い。

    ネタバレBOX

    公演は、ドキュメンタリー映画「隣る人」(2011年制作)を観るようで、心が痛んだ。もっとも映画のように日常の生活を坦々と切り取るのではなく、芝居らしいメリハリのある小挿話、サイドストーリーを絡ませ牽引する。それだけにどのシーンを見せ場とするか腐心したと思う。その現れが山場の連続のようである。

    この公演は児童養護施設「ユーカリ園」が舞台である。セットは中央に事務机、その奥はベランダ(テラス?蔦も絡まる)へ出るガラス扉、上手には洗面台、応接セット、下手には、ローキャビネット、掲示板。

    梗概は、チラシ(封筒)から抜粋し「この春、児童養護施設『ユーカリ園』には、施設を退所する3人の若者達がいた。 それぞれ、将来に対する不安、悩み、葛藤を抱え生きている。 自らも孤児院で育った過去を持つ、戸高陽平ら職員は、そんな若者達の抱える問題に真正面から向き合って行く。 ユーカリ園で巻き起こる、悲しくも心温まる人間模様」である。

    この児童養護施設における様々な問題は、現代社会が抱える問題そのものである。その縮図を芝居らしくデフォルメして問題をしっかり浮き彫りにする。その凝縮した思いが観客の心に響く。例えば、18歳でこの園を卒園し、社会(就職)などへ出なくてはならない。親がいない子の就職の難しさ。進学したくても経済的な面で断念しなければならない。(父)親の身勝手で、この園に入所した子を引き取りに来る。さらには、この児童施設ではないが、ここで働く女性職員が、自分が育った児童施設(そこの職員)で性的被害にあったことなど、広範な問題を次々に明らかにする。話しは無理なく展開するが、その問題(山場)がインパクトある演出で描かれることから、衝撃が大きい。先に記したコメディタッチとのギャップが大きいだけによけいその感がある。
    ラストの桜が舞い落ちるシーンは感動的であり余韻大。観客席中央を中心に降り注ぎ...素晴らしい演出であった(桜色で花びらを形取るなど細かい)。

    この物語の先見性と記したのは、3月9日に観劇したが、10日には児童虐待対策や社会的養護に関する厚生労働省の専門委員会(有識者委員会)が児童養護施設の入所者は原則18歳で退所する必要があったが、22歳までの入居継続(支援)を可能にする報告書をまとめている。ちなみに18歳退所を撤廃出来なかったのは民法改正(成人18歳)の動向が影響した。

    現代における社会問題を演劇という文化の中に取り込み、しっかり問題提起する。それは倫理、教訓という教科書的なことではなく、あくまで観て感じさせるというもの。お仕着せと感じる向きもいるかもしれないが、現実にある施設であることも事実。新聞では養護施設にいた人が、同じ境遇の子供を救おうと、施設職員になることを決意した、とあったが、まさにそれを地で行くような公演であった。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/03/10 07:21

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