葉子 公演情報 アロンジ「葉子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    最終日観劇
    史上最年少で芥川賞選抜された女流作家ということだが、今回の舞台化で初めて存在を知った。昭和27年の大晦日、自死するまでの一日の行動を電車に絡めて見せるが、肝心の人物像にあまり掘り下げ見られず。書くことの執着と苦悩、恋愛、裕福と思われていた生活と周囲の羨望とは反する家庭生活、生活の糧を21歳の葉子が負担する部分も見られたが全てを見せるには時間が足りないような。説明文では謎解き要素も含まれているような想像をしていたんだが、そのあたりは理由が不鮮明ぽくて私の頭ではあまり理解できなかった。現代パートも必要だったのかな。

    終戦後間もない時代の神戸での出来事の話だが、葉子って今で例えるならセレブ出身。しかも(そんなシーンはなかったけど)華麗にピアノ弾いたり人目をひく美人、ラジオドラマや演劇の作家であったりする。もう無敵。比較的恵まれていた立場にしては、その当時のエキセントリックな人種だったんだろうか。今でいうならメンヘラ、なのかなぁ…?この内容だったらあの人が演出やったらシリアスコメディとしてもっと面白く見られただろうな、とか思えた場面が多々あり、時折流れる気怠く聴こえるシャンソンも時代を感じさせて良かったけど今回のこの舞台の見せ方に関しては全体的に演出が古臭い印象を持った。また戯曲自体も、劇作家協会が選びそうな題材と思った。

    久坂葉子氏の作品も読んで見たいが、物販は上演台本のみ(だけだったと思う)。今回みたいな舞台こそ当日パンフや配役表示を出して欲しい。約110分。

    余談だが、毎回、座高円寺のステージを見るたびに、学校の講堂を想像してしまうのは悪い癖。

    ネタバレBOX

    セットらしいセットは特になく、舞台正面に写真映像が切り替わって出されたり。駅ホームをイメージするようなセットが場面によって出てくる。
    現代。大晦日。首都圏の電車路線に人身事故が同時多発に起こる。駅員は適切に処理していくが、その中の一人の職員が読みかけだった詩集の女流作家が旅立った日も同じような日だったことをふと思い出す。場面が変わり、お節料理を拵えている最中の老婆の元に久坂葉子を研究しているという女子大生の孫スミコ(漢字不明)がやってくる。
    そこから久坂葉子の最後の1日が辿られていく。

    葉子と父、元華族で名家ではあるが、生活に困窮してるは病弱になり生計も成り立たず「これを売れ」と差し出されたものは天皇陛下から拝領された品。そんなことしなくても私が作家として家族を養う覚悟はあるわよ、けれど、どこか憂鬱で不安な感情に襲われたりする。その様が髪の毛を掻きむしり、マンガだったら葉子の背後にグレーの渦巻き模様が覆うような苦悶状態に見えたりしたが、父の必死の呼びかけに正気に戻り、割り切ってそれを金に変え、今度は作家として同士でもあり恩師でもある島尾家を訪れる。見ていて気付いたが葉子の履いていた靴下で、足の甲にあたる部分に赤いシミみたいなのが見えたんだが、出血じゃないよね?なんか変に目立っていたが、あれはなんだったんだろう?怪我じゃなければ良いが。

    島尾家ではそんな平然としているけど実はスランプな事情を意中の島尾に告げるが、気持ちが昂るあまり、お金ならあるんです、心中してと迫ったりする。妻は夫とお客の様子を伺いに客間に入ろうとするが話が込み入っていると見え、その場を離れる。客間の2人は妻が来たのを気付いていたのかはわからないが、葉子は島尾の服装がやけに洒落てる格好に気づき、島尾と妻の関係が良好であることを悟ると複雑なジェラシーが爆発、思いの丈を出すあまり襲ったりして。咄嗟の行動でも島尾は深入りすることはないまま、その場を取り繕う。落ち着いたところで、妻お汁粉持ってナイスタイミングで客間in。妻の作ったお汁粉を「おいしい」と言いながら味もわかっているのかわからないまま食べる葉子。側で見る夫婦善哉なやりとりがさらに葉子に追い打ちをかけ、そそくさと島尾家出て行く葉子。さらにドツボにはまる。
    洋装を着こなしていたオシャレさんの葉子という割には、この時の服装はアクセサリーなどはつけてないように見えたが、全体的にオシャレで華美さを感じさせずシックな服装に見えた。前髪はパーマメントの気合が入っていたが。おフランスから取り寄せた型紙使い、妻のみほが編み上げたとするカーディガンも時代を感じはしたものの、その色合いから島尾が妙におっさんに見えた、実際おっさんの年齢なのかもしれないが。この夫婦が後にいろいろと騒動を起こす夫婦になるとはなー、って今回の話にはこれ以上出てこなかったけど。

    電車復旧しましたよーな、現代パートがあって。
    連れ込み宿で劇団俳優(名前失念)との情事が終わった場面に移る。若い?同年代?の恋人と、お金あるのよ、でもスランプなのよ、行き詰まってるのよお願い一緒に死んで、今の私とシンクロ(言ってない)して欲しいのよ、と迫るも、そんな太宰みたいな事出来ないし病弱な母親残して死ねるか、と、けんもほろろに断られ、表面上顔には出さないが更に情緒不安定加速。
    情事の後の蓮っ葉でやさぐれた21歳の女が見えて、これが本当の姿なんだろうなと思えたり。「捨てられる」と自覚した瞬間の涙は、等身大の女子の部分が出たんだろう。かなり浮ついた恋愛遍歴だけど。布団の上ではオシャレシミーズで大胆な葉子。支払いは葉子でやっぱり現金払いか。

    気持ちボロボロになりながらウイスキーの小瓶を飲みながら街中を彷徨っていたら、年越しの屋台が軒を連ねている。気を良くした葉子は露店商たちにここであったのも何かの縁とばかり、大判振る舞いをしようとするも上手くいかず。その中で手相占いしてもらったところ、幸運な手相と褒められまくる。一夜明ければ順風満帆の人生が待ち受けていると言われたり、露店商の顔ぶれが、それまで葉子を巡る人々の父や島尾や恋人の姿に見え出てきては消える。一度は元の自分自身に戻れる寸前までいくが、焦燥感しかない今は自らピリオドを打つしか考えはなかったようで。阪急六甲駅に最終の急行列車がホームに到着すると同時に消える葉子の姿。
    実際そうだったのかはわからないが、人間誰だって根が深いスランプに陥ると安定に戻すまで時間はかかる。死と隣り合わせだった時代から少し過ぎ、現実の生きる意味を模索するのはこの人にとっては無用だったのかな。
    露店商たちが一列になって歌を歌ってくれるんだが、見ているこちらが照れた。

    現代。お節を作り終えた老婆の元へ帰宅したスミコ。
    実は秘密があって、久坂葉子とは古い女友達、死んだと思った?実は、あなたは私で私はあなた…な、メタフィクションな結末。

    よくわからない部分もあったので、観劇後、久坂氏の人物と周囲の関係を調べたら、葉子の慕っていた島尾敏夫って特攻隊の生き残りで「死の棘」の人か。この時はまだ奥様しっかりしてて夫婦円満だったんだ。ふーん。
    生きて味わう幸福と、死んで得られる(のか?)幸福。それでも最後の表情は迷いのない明るさで。満たされた人生の結末なんだろうけど、素直に同意できない。こう言われるのは久坂嬢にしてみれば不本意なんだろうけど、やってることは同じだよなぁ。女・太宰。

    葉子役の松本さんは昭和の雰囲気があって良かったが、現代パートの女子大生では対比をつける意味で、別の女優さんが演じても良かったんではないかな、と思ったり。岩崎さん、すらっとした姿勢に、かなりのお年にも関わらず、お達者で敬服。俳優さんにお達者ですね、は失礼か。でも最後のやりとりは懐かCMの「早めのパ×ロン♪」みたいに見えてしまった。どうもすみません。

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    2016/03/07 01:53

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