波しぶき 公演情報 バッカスカッパ「波しぶき」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    過去の闇
    一言で言うとこんな感じ。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    とある町工場の夫婦は子供が欲しかったが、中々出来ない。原因は夫婦の両方にあったが、この夫婦はお互いの事を思いやって本当のことが言えない。

    妻は子供が出来ないのは自分の体が原因だと、同じサークル仲間の男に相談する。同じように夫も従業員の矢守に最近の妻の様子がオカシイ。子供が出来ないのは自分の体に原因があると、相談をする。

    ここでの夫(社長)の気弱な仕草が観ていて楽しい!(^0^)
    なんだかんだ言って夫婦はお互いを愛しているのだ。

    一方で、従業員の矢守は金子社長の父親から暴力を受けて育った過去があった。矢守は仕返しとばかり、この工場を潰そうと画策した結果、工場は潰れかかる。

    矢守の本来の目的を知ってしまった妻は、矢守の裏切りを心優しい夫に知られないように配慮するが、夫は全てを聞いてしまった様子で、夫の下した最後の決断がとても男らしい。

    弱々しく見えた社長がいざという時にとった行動が何とも憎いのだった。
    妻を最後まで守ろうとする姿勢は8年前の約束どおりこれからも、ずっと君を守っていくよ。と暗に正している。更に矢守が持っている過去への執着を、ここできれいに清算させる。

    この作品に作家がどんな思いを託し、何を描こうとしたのか、そこを外してしまったら芝居をやる意味がない。
    オリジナルは世の中にアピールしにくいという現実があるが、作家が自分なりに掴んだ「書きたかったもの」の根幹は人間の本質なのかもしれない、と私は思う。この作品は大きなうねりはない。派手さもなければ、パラダイスなはっちゃけたシーンもない。むしろ、地味で日常のどこにでもいるような夫婦と下町の潰れそうな工場なのだ。そんな普通さをとらえた物語で、暖かい作品だった。

    どこにでもあるような言葉で語られる人生の断片。飾り気のないセリフ。いい意味でがらんどうで風通しのいい物語。乱雑な生活の匂いのするセット。お人よしの社長と従業員矢守の温度差。最終的に矢守はこの工場を陥れてしまった事に苦悩する。そうした自分の不誠実さをリセットし、もう一度やり直そうと改める。静かだが矢守の苦悩を爆発させる瞬間でもある。

    この物語のもう一つの特徴は「平行線をたどる」ところにある。最後まで何も変わらないし、始まらないし、終わらない。

    誰にでも自分の身の丈、自分の尺度の生活というものがある。誰でも最終的には落ち着くところに落ち着くのだと私は思っている。この人達にとって、それはたまたま元の場所に戻る事だった。表面的には後退かもしれない。でも自分の居場所を再確認したこと自体が、限りない前進なのだ。

    この物語は傑作だからみんなにみてもらいたい、というのとはちょっと違う。舞台の出来不出来の評価なんてどうでもよくなってしまうような、個人的で身近でノスタルジックな感じがある。

    ここの登場人物全員に、どうか挫折する事を恐れないで、と言いたくなってしまうのだ。さまざまな紆余曲折経て、遠回りしながらの過程こそが人生の面白さだと私は思う。


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    2008/11/08 18:34

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  • 相変わらず、鋭いわね、おーじ。
    そうなのよ、本当にそんな感じ。たいしたレビューでもないのに良く理解できたね、素晴らしい!

    いあいあ、貴方の書く文章の方が素晴らしいですよ。毎回的確なコメントを頂いて、毎回感心しています。

    よくもまあ、長年に渡り日記と両方にコメントを頂きまして・・・涸れる事の無いそのエネルギーに感服します。凄いことです。

    2008/11/12 00:12

    なんか、テレビのホームドラマになりそうな・・、そんなテイストなのかな・・。
    レビューを読んでいて、そんな感じもしました。

    確かに、史上著名な事件がテーマというのでもないし、ハードボイルド、ミステリー仕立てでもなさそうですし、でも、何となく、自分の周りにも、ふと気づけば転がっていそうな・・。

    文末・・、さまざまな紆余曲折経て、遠回りしながらの過程こそ・・・。

    これは素晴らしい文章ですね・・。
    いつも感心させられますけど、今回はひときわ深く、肯いてしまいました・・。

    2008/11/12 00:03

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