満足度★★★★★
言語化できない衝撃
「おどろおどろしさ」を演劇で表現するのは実は難しいと思います。単に殺人や悲惨なことが舞台上起こるだけなら、演劇というよりは安っぽくて悪趣味な見世物にすぎないからです。悲惨なもの、グロいものなら、本物がネットにいくらでもころがっています。「鬼の居ぬ間に」は、そういう即物的なものではない、曖昧模糊として捉えにくい悪意や迷信、蒙昧、そしてそれらを包有する空間を作り出す稀有な劇団さんだと思っています。
劇場に入ってすぐ舞台美術でぐっと引き込まれたのを覚えています。771の雰囲気もありますが、ここから異世界に入るんだという感覚。決して楽しい物語が始まるわけではないのに、不思議な高揚感がありました。物語の根幹自体はかつての日本にありふれた話だったと思います。ただ物語の構造や伏線の複雑さなどの文学的な問題はさておき、時間が経っても、劇場で受け取った「異世界感」の異様さ・インパクトをありありと思い出すのです。細かい枝葉のお話は時間が経てば忘れてしまいますが、あの言葉にならない圧倒的な異質さは今でも残っています。言葉にならない部分が大きい作品でした。