レプリカ 公演情報 d-contents「レプリカ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    観客の落とし所を良く知るシナリオ花四つ星

     最初のダンスに必然性は感じなかったが、アンドロイドのことが絡まってのダンスには、必然性があり、その不気味なテイストの表現は見事である。

    ネタバレBOX


     ある日突然自分がヒト型アンドロイドとして生まれ変わり、その自覚も無いまま生き続けていたとしたら? 社会はどのように反応するか? 単に本人に自覚が無いのみならず、人間と同等に、睡眠もとれば、食事もするし空腹感や眠気も催す。感情表現や感受性も生きていた時と全く変わらない。変わらないと言えば、成長期でも身長・体重が変わらない位のことである。オペを受けた時の記憶は完全に抹消されているものの、他は全く本人がそれ以降生きた歴史と変わることはない。それが、本人に告げられる迄は。
     今作の優れている点は、アイデンティティーの絶対崩壊を、即ち総ての価値観の崩壊を前提に作られていることである。我らの生きる今日、本質的に総ての価値観は崩壊している。そう言って悪ければ、我らの学んできた或いは学ばされた欧米中心のイデオロギー、二元論や弁証法、ヒューマニズムや価値観、哲学や論理、そしてこれら総ての根底にあるハズの存在や認識の総てが疑われ揺らいでいる。当然のことながら我らの存在に意味があるのか否かだの、生きることに意味があるのかどうか? も問われ揺らいでいるのである。もっと突き詰めてしまえば、これらの問いは、カオスにあっても、何故問われ得るのか? が問われねばなるまい等々。更に今挙げた疑問の形式自体が欧米流の問いかけ方なのに、明確に対置できるような次元が設定できるのか? という問題もあろう。数学的に定義できるという者があるかも知れない。そしてそれは可能であろう。だが、今回自分はその方法を採らない。だが、では何によって自らをアイデンティファイし得るのか? 言葉による方法がその一つである。だが我らの用いる日本語とは、そもどんな言語なのだ? その性質を見極めるのにいくつかの方法が在り得る。他の言語と比較することによってその特性を明らかにする方法。指示するものとされるものとの関係などを内在的に問題化することよって謂わば内的にその構造を明らかにする方法などである。
     ところでこういう問いかけをすることに意味があるのか? 我らの存在そのものの意味がある、ということが幻想に過ぎないかも知れないのに。デカルトならば、Cogito ergo sum.ということになるのだろうが、これもまた西洋の哲学である。それもデュアリズムの原点に位置する根拠律なのである。
    我らの居る現在は、以上の論理によって解決しない。丁度、誰も感覚で放射性核種の放出する莫大なエネルギーを感知できないように、分からないのだ。我々は何一つとして。一見、何事も無かったかのように流れる川。その底に沈んだ汚泥の中に放射性核種が含まれており、それがα線、β線、γ線、x線などの放射線を放っているか否かは我々の五感では分からないのである。その上、放射性物質や軍事的核に利害関係を持つ者は、その甚大な被害については出来得る限りの過小評価と露骨な嘘によって答えることになっている。これは既に出来レースであることは誰でも知っているのだが、誰も止めることができない。こうして我々は一秒一秒・一息毎に破滅の淵へ向かっているのだ。滅びは目の前である。更に悪いことには、多くの人々が目の前で進行している破滅への進軍に気付いているが故に目を向けないのである。人々は民主主義の何たるかをはき違え、自由の意味を知ろうともしない。それを担おうとする者が更に少ないことは言うまでもあるまい。そんな思考停止の連中には、管理が似合いだ。そして管理された連中は、人間としてのその迷いすらも、与えられるもの・ことでしかないのである。今作の背景にある不気味さは、何も人間そっくりのアンドロイドが人間に紛れて存在していることではない。総てが管理されることを喜ぶ愚衆の気色悪さなのである。
     ラスト、破壊されるべく集められたアンドロイド達が集められた建物が光る。これは当然神の顕現を表しているのだが、その神は、本物の人間よりも、人間そっくりのアンドロイドが、明確に生きようとする意志を持ち、為に人倫を踏み外していないことを良しとするのである。
     今作でも最後の最後に少し希望の光が灯されるように、この絶望的な状況に光を当てるかも知れない哲学を少しだけ紹介しておこう。そのコンセプトは一即多、多即一。を唱える華厳経と同じく7世紀に成立したタウヒードである。興味のある人は自分で調べるべし。ヒントは与えた。

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    2016/01/16 01:21

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