ジョルジ・フッチボール・クルーヴィー 公演情報 Ammo「ジョルジ・フッチボール・クルーヴィー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    人間的視点と社会情勢
    ブラジルであった、実事件をモチーフに描いたようなサスペンス劇。
    当日パンフに劇団Ammo代表の南慎介 氏が今回(本公演)はある、矛盾の話...と記していたが、さらに根深い不条理のようなものが感じられた。

    この公演は、観客の視点を自然に転換させる巧みな観せ方が見事。冒頭の凶悪シーンから物語が進展するにしたがい、いつの間にかストリートチルドレンの側に立ったヒューマニズムを思わせるような...。人間の中に潜む狂気のような感情と、そうならざるを得ない政治・社会情勢を上手く融合させる手腕が素晴らしい。
    描くは、今の日本では想像し難いため、異国の地の出来事としつつも普遍的に感じるであろう、「富裕」と「貧困」の間で現れる人間の本性を...。

    ネタバレBOX

    カンデラリア教会虐殺事件。この教会は、違法薬物売買、売春などに関わった、家のない子どもの宿泊所の機能を持っており、食料、教育などの援助を行っていた。某日、子どもたちのグループに発砲し、当時のマスコミ発表では6名死亡と伝えられた。
    リオデジャネイロは、インフレなど経済不安定から、路上生活や犯罪行為に走る少年たちが問題視。警察等により路上生活者への「取締り」や「補導」を名目とする暴力行為があったという。リオには「死の部隊」と呼ばれるグループがあり、商店主らは治安悪化などで観光客の客足が伸び悩むことから、安給料の警官や元警官などが依頼を受けて路上生活者に近づいて暴行や殺人を行っていたという。

    公演は、この実際あった事件をスラム(「チラシ」のイメージ)に置き換えて、もっと広範で深刻な内容にし、その重大性を強調している。舞台セットは、d-倉庫の天井の高さを利用し、斜面に広がるスラムをイメージさせる高層構造…中央部は出入り口、上・下手に変形階段。斜面坂道などを思わせる。
    冒頭は子供による強奪シーンであるが、次第にその環境・境遇から止む終えないものと肯定されるようだ。その人間性は貧困という病のせいだ、という論理が個人における正義と悪行の分かれ目になってくる。その根源は劣悪な社会・経済状況にある。
    観所は、「死の部隊の警察官」のエスケルディーニャ(西川康太郎サン)とフッチボールコーチのジョルジ(桑原勝行サン)の対決シーンであろう。裕福でなければ権利も自由もない...生きている価値さえないという。一方、貧困であっても生きて夢をみる自由はある、そんな対立会話の応酬が圧巻であった。
    物語は、ストリートチルドレンへの人間的な同情へ...個人的な視点を据えているが、その先には国家への鋭い批判が...。
    その描き方が現在ではなく、10年前の追跡取材で明らかにする。その事件を客観的に観る上でも、巧い構成である。そして、取材を通じて明らかになる過去と現在の恐るべき繋がり…観応えあった。

    さて、現在の日本社会に目を向けると、犯罪性には疑問があるが路上生活者がいるのも事実。実際、行政機関がその人数を把握する調査を行っている。その状況になった原因等は色々あるだろうが貧富差が拡大しているのではないだろうか。

    この公演は芝居としては面白いが、ブラジルにおける当時の状況が色濃いような気がする。観念的には理解しつつも身近な問題として実感するには...。
    ただし、貧富・差別・自由・権利、そして暴力の連鎖という大きく普遍的なテーマの見据え方は良かった。

    最後に、最近は海外時事(ニュース)を入手する部署から離れているが、それでもブラジルは2016年オリンピック開催に向けて治安改善に努めていると聞くが...。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/01/10 00:27

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