満足度★★★★
ふくよかな劇空間。久々の再演
炭坑三部作中「おばけの太陽」と「泳ぐ機関車」は観ていた。似た話があったな~、とは思ったが、他にも近い設定の話はあるし、桟敷童子の劇は「話の中身」自体は深く追わずとも、観劇の快感を得られるので、今回は「観てない」この作を、時間が出来たので前日予約してみにいった。「泥花」が最も完成度の高い戯曲だ、と感じた。みれば2006年初演。桟敷童子の16年の歴史では「前期」に属する勘定になる。特にオープニング~前半が「たまらない」程よい。炭坑の経営者の家族が素性を隠して別の炭坑町へ遠戚を頼ってやってきた訳だが、姉二人(板垣・川原)と弟(外山)の心許ない境遇にあっての結束やすれ違いのドラマ、訪れた町で出会った人達それぞれの人生模様と彼女らとの関わり・・「語り手」である三姉弟の弟の済んだ目に映し出される風景としてそれらが見えてくる。もっとも弟も、「泥花」の逸話とそれを切々と訴えて来る顔を炭だらけにした親無し子(鈴木)に子供らしく心を揺さぶられ小事件を起こす当事者にもなる。件の坑内事故で親を亡くしたという青年(池下)に女としての心を動かされる姉たち、また青年は次第に労働運動に関わるようになり、雇用者の反感を買って身を危うくする。次女がまず彼に思いを寄せるが、彼の心が長女にある事を悟り静かに身を引く。引っ込み思案な長姉だが彼と関わる内に自分の(家族の)「罪」を隠しきれなくなる。深く心をつなぎ合わせた二人だったが、追われる身となった青年は、「闘って下さい」(あなたの人生の闘いを)と言う。・・舞台は上手に三姉弟が身を寄せる部屋、中央に通る狭い裏路地を隔てて飲み屋「稲久」の家屋と半戸外の営業スペース、前つらが通り道。この空間が、そこに出入りする人物たちと相まって、愛すべき世界を形成している。
今回は劇団の過去公演の写真の展示がなされていた。旗揚げから数年はいかにもアングラな雰囲気が感じられる美術、衣裳で意外だったが、初期作品を再演という企画もやって欲しい。