満足度★★★★★
また観たい。
宮本常一、という人物をご存知の方が、どれほどいるのだろうか。
今回の作品に触れるまで、その人を始め、取り巻く人々のおかげで、どれほどの貴重な「文化」が受け継がれて来たのか、知り得なかった事も含め、とにかく、長田サンの作品の着眼点には、ただただ敬服するばかりである。
「粗末なモノほど、消えてなくなる」
今回、特に響いた言葉だ。
話はそれるが、今回の作品を観ていると、3.11の時の事を思い出す。
あの時、日本中が暗い気持ちになった。
街からは明かりが消え、その年の多くの祭りも自粛ムード。
舞台に関しても、はたまた何の為?誰の為?という空気が漂っていた中で、それでも舞台に立ち続ける意味とは?
公演途中だった者、公演直前だった者も、誰しもその進退を真剣に考えた時期があったが、今、こうして舞台を観ていられるのも、あの時「そういった選択」がなされたからこそ、なのではないかと...。
休憩挟んでの2時間20分程の大作だったが、役者の小気味良いテンポと、地に足の着いたやり取りで、まったく飽きさせる事が無い。
初演を拝見していないので細かいキャスティングの違いは分かりかねるが、これはこれでベストではないだろうか。
人はそれぞれ、生まれもっての質がある。
人としての成長過程が際立つ役もあれば、変わらぬ.変われぬ役もあったり、結果、個性としてしっかり際立って見えてくる事で、より一層作品に深みを増している。パンフに「時の中の人々」とあるキャスト達の存在も、この作品には欠かせない。
抽象舞台にも関わらず、そこがしっかりとした世界を生み出すのは、やはり演出の扇田サンの手腕が光る所だろう。
彼の世界観に身を任せ、同じく時代の渦に巻き込まれながらの、あっという間の時間だった。
...余り細かく書くとネタバレになるので控えておくが、それほどまでに、観た者に多くを語らせたくなる作品だった。