想いはブーン 公演情報 小松台東「想いはブーン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ストレートプレイ好き、演劇好きならば、観てほしい舞台
    今、ストレートプレイの演劇で一番面白い戯曲を書いているのは、この小松台東の松本哲也さんではないかと思う。
    この最近、小松台東以外にも戯曲を提供していて、非常に多作なのだが、どれも面白い。

    今回の『想いはブーン』は、その中でも最高に面白い一作だ。

    (ネタバレボックスに書いています)

    ネタバレBOX

    電気工事会社の詰め所が舞台。
    社長が明後日、命にかかわ病気で入院するので宴会が開かれている、一夜の話。

    とにかく台詞のやり取り素晴らしい。
    どの役者も上手い。
    自然に会話をしているし、そのときの気持ちがこちらに伝わってくる。

    特に、3人姉妹の会話が素晴らしい。
    中盤で3人だけが会話するシーンだ。

    長女役の山像かおりさんは、登場した一瞬から3人姉妹の長女であり、母親である佇まいであった。

    そして三女役の異儀田夏葉さんはやっぱり上手い。
    彼女だけが、3人姉妹の中で、外との窓口の役割を果たしている。
    すなわち、男性の登場人物との接点を担っている。
    彼女だけを接点とした戯曲の上手さもあるが、その重任を異儀田夏葉さんは見事に果たしていた。

    姉妹の間で見せる顔と恋人に見せる顔、ほかの電工さんや、幼なじみに見せる顔が微妙に異なり、その台詞のトーンの使い分けも見事なのだ。姉妹との会話と電工さんの隆史との会話は、落ち着いているようで、実は微妙に違うところが上手すぎるのだ。

    次女の森谷ふみさんは出番は少ないのにもかかわらず、彼女の立場が上手く伝わっていた。
    昔の恋人との間を突っ込まれながら、(それと気づいて)その彼、隆史(あとでもう一度それが確認できるという演出も上手い)の上着を畳んで見せるという演出も効いている。

    役者も上手いのだが、もちろん、戯曲自体もいい。
    今、ストレートプレイの演劇で一番面白い戯曲を書いているのは、小松台東の小松台東の松本哲也さんではないかと思う。
    この最近、小松台東以外にも戯曲を提供していて、非常に多作なのだが、どれも面白い。
    この『想いはブーン』も非常によく出来ていると思う。

    台詞の1つひとつが、いろんな出来事や人間関係にきちんと結び付いていく。
    ことさらにそれを前面に出しているわけではないが、張り巡らされた台詞(言葉)で観客は知らず知らずのうちに、物語や、そこに描かれる人物の背景の深さを感じるのだ。

    だから面白い。

    印象的だったのは、長女と三女が抱き合って泣くシーンだ。
    その姿に、ぐっときながらも、観客は後から現れた次女と長女の娘の姿に少し驚く。

    抱き合う2人の姿になんとなく理解し、一緒に抱き合おうと誘う長女に対して彼女たちはためらうのだ。
    確かにリアルに考えれば、それに乗れるはずがない。

    ためらうから単に泣かせるシーンにならずに、それよりもさらにいいシーンになるのだ。
    次女は、形だけ抱き合って見せるのだ。
    わかったと理解して一緒に抱き合うのでもなく、突き放してしまうのでもない。

    気持ちは伝わるから、長女、三女、長女の娘と、照れながらも形だけ抱き合うようなことをする。
    このとき身体に触れるということが大きいと思う。
    このシーンから十分に大人な姉妹たちの、今の姿がリアルに伝わってくるのだ。

    3人姉妹のそれぞれの恋愛観が垣間見えてくるのも、戯曲と役者が上手い。
    それぞれの立場、年齢、経験が微妙に違うが、“大人の”恋愛模様なのだ。
    ほかの登場人物も不器用な恋愛模様がよく出ていた。

    他人の介入によって、ほぼどのシーンでも会話は中断されてしまう。
    最後まで登場人物に結論めいたことを言わせたりせず、余韻がいい塩梅で残る。

    その会話があとの、別のシーンに効いてくることもある。

    松本哲也さんが演じる井戸潤の、暴力的とも言える台詞での介入は、舞台に緊張感を生む。
    三女の恋人である浩史に「師匠」「師匠」と言うのも、実にネガティヴであることがわかってくる。
    カップ麺を食べるときにむせるのは、面白いけどしつこいとは思うが(笑)。

    緊張感で言えば、長女の娘が泣きながら戻って来るシーンだ。
    誰かに襲われた、ということで観客の多くは今そこにいない男、浩史のことを思い浮かべたのではないだろうか。
    登場人物の様子からいってもそう思ってしまい、一瞬ひやりとした観客も多いのではないか。
    しかし、襲ったのがイノシシだとわかるのがバカバカしくも面白い。
    舞台の上の三女たちの大笑いは、まさに観客の思いと一緒だった。
    娘役の小園茉奈さんもいい塩梅の娘ぶりが面白い。

    演出で言えば、三女と隆史の会話のときに三女が誤ってコップの酒を少しこぼしてしまう。
    それを隆史がさりげなく雑巾のようなものを手にして拭く、というシーンが、アクシデントなのか何なのかわからないほど自然で、痺れた。

    三女の幼なじみ(山田百次さん)は、登場から存在自体が卑怯なほど、いい味を出していた。
    隆史役の瓜生和成さんはさすがにいい。三女との会話の、気心知れた感なんかとってもいい。

    盛り上がっているであろう宴会から聞こえる『山谷ブルース』の歌声が、奥のほうから聞こえてくる様もいい(やはり電気工事会社を舞台にした小松台東『デンギョー!』でも、『山谷ブルース』だったような)。

    小松台東は確実に面白い。
    これからも期待できる。

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    2015/10/05 07:47

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