よみ人シラズ 公演情報 ナイスコンプレックス「よみ人シラズ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    いろいろ考える
    この公演は、観ていて胸が締付けられる思いであった。第二の故郷である広島県内で、某高校における日章旗掲揚・君が代斉唱を端に、教師が卒業式前日に自殺した事件(こと)があった。確かこのことが「国旗及び国歌に関する法律」成立のきっかけとなったと思う。

    この芝居は、描く内容が観客によって受け止め方が違うであろうことを承知で、それでも敢えて問題提起したと思った。その表れが、タイトル「よみ人シラズ」...実に上手いネーミングである。この公演の素晴らしいと感じたところは、問題の根幹を見据えつつ、しかし直截的に描くことをせず、その思いを観客に委ねたところであろう。確かに主張は垣間見えるが、そこは余韻として受け止めた。

    ネタバレBOX

    梗概は、2015年生まれのアキラが成人式を迎える2035年。2020年の東京オリンピックを経た本当に近未来の話である。その時に国歌として「君が代」斉唱を促されるが...。
    表層的には、君が代を巡り、過去・2021年(小学校入学式)・現在(2035年)という1100年の時代空間を旅する。そして更に自分の生立ちで小学校入学式でのトラウマ(苛められたと誤解)になっていた耳が聞こえない、を成人式において邂逅・誤解が氷解、克服するような成長物語。

    その舞台は、ほぼ素舞台であるが、中央上部に日章旗(真ん中部分は刳り貫き、旗後部から出入り)が掲げられている。板上は登場人物分のパイプ椅子が並べられているが、それは常時あるわけではない。

    さて、「君が代」の考え方として、時代は文徳天皇の第一皇子惟喬親王の時代へ。親王に仕えていた者が詠み人知らずとして扱われるが、この詞が朝廷に認められ、詞の元となった”さざれ石”...が登場する。
    そして時代は下り、紀貫之編纂での取り扱い。ここでの「君が代」の解釈はどうか、という学問史書の内容も披瀝する。
    更に時代は下り、明治時代...第二次世界大戦という戦前までの「君が代」とは...万葉集などでは「君が代」自体は「貴方(あるいは主君)の御寿命」から、長(いもの)にかかる言葉である。転じて「わが君の御代」となる。国歌の原歌が『古今和歌集』の賀歌であるため、「我が君」の「君」とは天皇なのかどうかということがしばしば問題にされる、らしい。刷り込みも示唆するような展開もあったが...。

    この”君が代”斉唱の時に、起立の号令に従ったのは、アキラだけであった。耳が聞こえないから...しかし、その歌詞に引き込まれた、というのが事の始まり。そして斉唱号令を掛けたのが父親であり、耳が聞こえないアキラを厳しく育て上げた。そのいくつもの思いが「君が代」を通じて描かれた秀作である。

    描き方が難しいようなテーマであるが、今、いろいろなことを考える...自分で考えるという姿勢が大切である。この物語では敢えてそれに挑み、主人公の身体的ハンデによる心を上手く使い、自分の成長と同調したようなストーリーに感心した。

    次回公演を楽しみにしております。





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    2015/09/12 16:46

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