ヘルメスの媚薬 公演情報 BELGANAL「ヘルメスの媚薬」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    危機管理
    60分の中に、人間の欲とプライド、他人を観察して面白がる冷めた視線が交差して
    濃密な“嘘つきドラマ”が展開。
    “大人の崖っぷち感“満載の登場人物が「人は信じたいものしか信じない」なんて
    素敵な台詞を吐きながら蠢くあたり、作家柳井氏の若いのに老成した部分が全開。
    不気味なBGMも良かった。

    ネタバレBOX

    入り口から見ると奥へと延びる長方形のアクティングスペースには
    たくさんの白っぽいくしゃくしゃの紙が敷き詰められている。
    目を引くのは正面の壁を覆う、一瞬血しぶきかと思うような荒々しいタッチの抽象画。
    それを三方から囲むように客席が設けられている。

    暗転の後、車いすの男性がゆっくりとその絵の前に進み、絵を見つめている。
    表情は暗く、生気がない。
    彼は日向記念病院の病院長志郎(西地修哉)、妹百合は看護師長(林田沙希絵)、
    弟直樹(朝川優)は事務長、という一族が経営する病院である。
    ここで原因不明の病気により、5人の患者が次々と死亡した。
    スキャンダルを怖れる病院が呼んだのは、かつてこの病院の医師で、
    今は医療危機管理センターの主席コンサルタント大神(鶴町憲)である。
    情報分析に長けた門野(北村雄大)と共に、副院長の牛尾(狩野和馬)や
    カウンセラーの兵藤(岸野聡子)らからも聞き取り調査を開始するが、
    全員何かを隠している様子でなかなか核心にたどり着けない。
    そんな中、事務長の直樹が提出した資料から、内部告発の手紙が出て来る…。

    率直かつ素直なのはコンサルタントの大神だけで、
    他は皆怪し気で嘘をついているように見える。
    だからつい大神の視点で真相に迫ろうとしてしまう。
    「人は信じたいものしか信じない」という台詞は、
    大神と同時に観ている私にも向けられている。

    隙のない役者陣が素晴らしく、緊張感が途切れないままラストまでなだれ込む。
    一度もハケない鶴町さん、屈託のある立場で真実を追求する姿にリアリティがあった。
    車椅子の病院長役西地修哉さん、積極性をとことん消した表情と声が巧い。
    事務長を演じた朝川優さん、チャラいぼんぼんの感じが巧くて、
    その後の行動とのギャップが鮮やかだった。
    KYな助手門野が医療部門の専門家でなく、観客と同じ目線で
    質問したり解説を求めたりしたのが理解を助けてくれて良かった。。

    大人の嘘は“何かを守るため”、その何かとは“自分を守ってくれるもの”なのだ。
    そして嘘をついた人間は、どこかでそれを告白したくてたまらない。
    その衝動は嘘の大きさに比例して強くなり、ついには耐えきれなくなって爆発する。
    告白すれば楽になるが、同時にその人間の終わりも意味する。

    抑制の効いた人生の最後に”媚薬”を持ってくるところが
    単なる医療問題にとどまらない奥深さがあって素晴らしい。
    無駄なせりふ無し、こってり気味の演技も謎解きにはプラス、
    事件の15年前も、事件の今後も気になる含みを持たせた構成も巧い。

    本当にこのあと、病院はどうなるのだろう?
    誰一人爽やかな笑顔を見せなかったこの物語の、今後が気になって仕方がない。
    そしてすべての始まりであった15年前の物語もまた観てみたいと思う。
    空恐ろしい15歳の少女の物語を。



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    2015/08/02 01:20

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