セルロイド 公演情報 ハツビロコウ「セルロイド」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    冷蔵庫
    身近な家族に対する一方的な暴力がドミノのように連鎖していく。
    父は子どもを殴り、やがて殴られた兄は母を、娘は赤ん坊を、そして兄は自分自身を、
    それぞれ勝手な理由で叩きのめす。
    淡々とした描写が一転驚きの展開、一気に緊張が高まるオープニングが秀逸。
    4人の中でただひとりの女性の声がハスキーで実に魅力的だった。
    ただ、勢いに頼る台詞には切羽詰まった感がにじまない。
    若手が若干“台詞に負け気味”だったのが残念だったが、エネルギーは伝わって来た。
    ラスト近く「目乾いてが黒くなって・・・」という台詞にリアルで不気味な手触りを感じた。

    ネタバレBOX

    アクティングスペースを挟んで対面式の客席が設けられている。
    開演少し前、ひとりの女性が登場して椅子に腰かけた。
    スナック菓子の袋を持ってポリポリ食べている。
    ほとんど一袋食べ終わってしまうんじゃないかという頃電話が鳴った。
    明るく元気そうな対応をして電話を切る。
    その後間もなく暗転、爆音鳴り響く中、突然横倒しになった冷蔵庫のドアが開き、
    強烈な明かりを浴びながら、中から男が3人飛び出してくる。

    互いに他をけん制するかのように四隅に陣取って、怒鳴り合いが始まる。
    女性はけがをした若い男を無理やり連れてきたらしく、
    「ここにいて私を助けて」と懇願する。
    若い男は「俺に何ができる?!何をしろって言うんだ?!」といら立つ。
    3人のうち年輩の男は父親、もう一人は女性の兄であることが分かる。
    兄は「俺はいるけどもういないんだ」と言っている。
    父親は昔幼かった二人の子供に暴力を振るい、加えて女性には性的暴行を加えた。
    一方兄は母親をターゲットに暴力を振るうようになる。
    女性はその後子供を産んだが、その子を放置して死なせた。
    自分がこんな風になったのはお父さんあんたのせいだ、と父親に懺悔させ謝らせ、
    見て見ぬふりをしていた兄のせいだ、と激しく非難する女性。
    ラスト、暴力の応酬ののち女性がひとり、何か尋問のように質問に答えている。
    母に暴力を振るった兄が自殺したこと、赤ん坊が次第に乾いて行くのを見ていたこと・・・。

    女の頭の中で渦巻いている家族と暴力への激しい嫌悪感を
    父、兄、そして自分が産んだ赤ん坊の3人にぶつける脳内バトルと言えようか。
    強烈なオープニングから怒涛のバトルが始まるのだが、
    同じところをぐるぐる回っているかのような出口のなさが
    八方ふさがりの現実を表している。

    誰にも理由があったのかもしれない。
    父親の性的暴行を受け入れた(ように見えた)のは“そのときだけ優しかったから”
    殴られなくて済むから、という理由が切なく痛ましい。
    女を演じた岩野未知さんのハスキーな声が素晴らしくはまっている。
    “女”を使って身を守らなければならなかった屈辱まみれの過去を語るのに
    なよなよしていない分だけ、“誰が喜んでなどいるものか”という強い怒りが伝わってくる。

    女には救われたい一心で子どもを産んだのに何の助けにもなりゃしない、
    という絶望感だけが残る。

    人は本能だけで子どもを愛し育てるのではないと思う。
    行政の介入も形式ばかりで効力はなく、個々の家庭は孤立している。

    有効な解決策などありはしないのだ。
    親が子どもの人生の責任を誰とも分かち合えず、一人で背負わなければならない時
    同じようなことはまた起こるのだ。
    そしてそれは地下深く秘密のうちに行われ、簡単に隣人にバレたりはしない。
    その暗澹とした時代の匂いが色濃く出ている作品だと思う。

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    2015/03/19 23:43

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