満足度★★★★
地方演劇のクォリティを超えている
とにかく舞台がキレイ。演者を想定した最小限で鋭敏な美しさは杉山至氏の面目躍如たるところか。そこに演者の身体性がフィットし、前半から息を飲むような暗がりの美しさを創出。
作家の文体はともすると自己満足に陥りがちな面が見られつつも、登場人物の行き場のなさを表現しながら、特に後半、客演の柳沼昭徳(烏丸ストロークロック)の静謐な存在感とダンサーでもある中島由美子の凛々しい立ち振る舞いが見事に噛み合い、沼地にズブズブと沈み込んでいくような人間たちのどうしようもなさを描いていて秀逸。
社会背景描写がほとんどないため、観念的に収束してしまっている感はあるものの、物語というより人間の存在そのものによる奇妙な会話劇という感じで面白い。
『逆しら』というタイトルに集約される人間という生き物の地球における存在矛盾を描いたというより、女性が女性たるゆえんの従属性、それこそ頭を沼に突っ込んで、淫らな下半身だけを表にさらしながら、泥水をすすり続ける(=男を欲する)女の醜い愛おしさを女性目線で描いた作品にも思えた。
舞台芸術としてのクォリティは、近年の広島の演劇としては出色であるが、広島という地においては異質ともいえるこの舞台が、他地域でどのように受け止められ評価されるか、大変興味深い。