白魔来る-ハクマキタル- 公演情報 ラビット番長「白魔来る-ハクマキタル-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    アンリ バビュルスの地獄(Aキャストを拝見)
     雪の降る時、惨劇が起こる。開演前、舞台はかなり昏めだが、天井からは植物の枝葉が垂れ下がり、への字のように作られた縁側、障子の辺りの枝葉は下手から青のライトで照らされ、オープニングでは、不気味な風の唸り、津軽三味線の太棹の音。明転すると若者達が、漸うの体で転がり込んで来た所である。彼らの背後には、三味の音の後、影が、音も無くこちらへ回り込んでくる。若者達は、怖気をふるうが、この古びた家の者であった。

    ネタバレBOX

     物語は、この老人が、何故、この村には、人が居なくなり、この老人は、何者であるのかを明かすに至る昔話を語る、という形で進められる。
     時は、約100年前、日清・日露戦争後もまだ多くの農民が貧困に喘いでいた。そんな農民の前に開拓をすればその土地は自分のものになる、という話が聞こえてきた。場所は北海道だという。飢饉があれば、年頃の娘は売られ苦界に身を沈めねばならないような時代である。若く自分の土地を持たない多くの者が開拓地に夢をはせた。
     貞夫一家も、そんな夢を負ってこの地に入植してきた一家である。貧しさ故、ここ迄辿りつく為に持ち金の殆どを費やし、新しい土地を農地にする為に必要な牛馬の手当てなど思いもよらない。だが、村長以下、先に入植していた者達は、この一家の為に馬を購入、新入植者への贈り物として与えてくれた。無論、馬は大変高価なものである。村人達が新たな入植者にかける期待の大きさと好意が並大抵のものではないことが、この一事によって示されている。{無論、まだまだ他に多くの一筋縄ではゆかない問い掛けが潜んだ作品ではあるが、上演中である。頗る敏感な人も居るであろうから、ネタバレは取り敢えずここ迄(追記2015.3.12)}
     この後、人々の大きな心の傷が描かれる。その具体例は差別されることによって己の居場所を失くし、自らのアイデンティティーを自らの属する社会(既に失われているので見出しようが無い)に於いて見出せない者。アイデンティティーが成立する為には、二重の前提が確保されねばならない。即ち、社会の類的存在として確立されるべき自己自身の内面と社会の中である役割を果たし認められて在る自己との無矛盾の統一性である。然るに、自らの属する社会全体が、マジョリティー乃至は力ある者から否定され尚且つ自らが属すべき社会からも拒絶されているとあれば「自分」とは、無限の崩壊過程以外何者でも無い。この現象は自らの認識に於いては、無限に深まりゆく虚無感でしかあるまい。平吉の抱えている地獄はこのような四面楚歌であり、自らを自らであると措定できない、まさしく地獄なのである。平吉が狂わないでいられたのは、当に彼が天才マタギだったからであり、狩られる羆に敬愛の念を持ち得たからで、人間界などの及びのつかない世界をアイデンティファイの場として持ちえたからである。逆に、老人が狂気に陥った原因こそ、平吉のような被差別体験を他の人間との関係の中で殆ど味あわなかった為、養い親の平吉を失った後は、寧ろ羆と精神の一体化を果たし、人間にとっては錯誤であることが、彼には条理であったという結論も、意味深長である。
     もう一つ、見落としてならない点がある。貞夫が助かった自分の子(即ち語り手の老人)の命を共同体である村に捧げなければならない、と考えている点である。このような発想は、欧米的な個人意識とは相いれない。日本型村社会乃至は近世迄の道徳律であろう。同時に貞夫の判断に内在する狡さにも注目しておきたい。即ち己の家族を守れなかった罪の意識や弱さ、情けない無力感を、生き残った赤子を魔と規定することによって転嫁し、殺害しようと目論む論理に実に日本的な狡さを見るのである。これこそ、村社会を支える滅私奉公の論理、安倍の目指す国家優先の論理に連なる欺瞞そのものを表象していると見ることができる。つまり、滅私奉公の論理とは、責任転嫁によって更に陰湿に隠されたより凶悪な魔を隠す擬制の論理と見るべきなのである。安倍如き下司は、イスラム国を批判できるだけの内的倫理の統一性を持たぬが故に、非難する資格は無い。無論、イスラム国の蛮行は非難すべきであるが、彼らを生み出した先進国の欺瞞にも同時にキチンと公平・公正な批判の目を向けるべきなのである。

    おまけ:観方によって、イスラム国成立の背景まで読み取れる作品である。少なくとも自分はそのように観ていた。

    さて、おまけに記したイスラム国成立についても少し話しておこう。イスラム国の中心メンバーには、イラク、フセイン政権時代のバース党出身官僚や軍人、警察官などが居るということは以前コリッチの別な所で書いた。無論、現在も彼らの動きを見ていれば、それが単に烏合の衆ではなく、相当実務に秀でたメンバーが居ることは間違いない。で直接的にはそのように優秀な人々が何故このようなムーブメントを起こして行ったかである。最も直接的な最近のきっかけは、アメリカが国際法に反し、単に自分達の利益の為にイラク戦争を強行し、フセイン政権を倒し、バース党関係者を追い払ったこと、その後暫定政府を立てさせ選挙を行わせて、シーア派のマリキを首相として傀儡政権を操ったこと、マリキの下でクルドの民兵組織、ペシュメルガは、シーア派と共闘して秘密警察のような役割を果たし、スンニ派を捉えては酷い拷問や虐殺を繰り返したこと。アメリカが開戦の理由とした大量破壊兵器等無かったにも拘わらず、チェイニーやらラムズフェルド、ウォルフォウィッツらネオコンは、イラクの豊富な石油から上がる利権に群がり収奪したばかりでなく、チェイニー等は、復興を大々的に請け負い大儲けした。更に、軍を民営化したブラックウォーターメンバーらは、レイプ、略奪、虐殺等何でもしたい放題やって居た訳だ。ブラックウォーターの社長エリック・プリンスは、SEAL要員だったと言われている。またアメリカ軍の特殊部隊員・CIA暗殺要員に暗殺の仕方を教えたりとCIAエージェントとしても関わっていたとの情報もある人物だ。非公式ではあるが、サブラシャティーラ虐殺の理由とされるレバノンのハリリ暗殺は彼に関わりのある事だと言うし、パキスタンのブット暗殺に関わっていたとの情報もある。何れにせよ、糞野郎だ!! 公式国家レベルに戻ると、英米は、バクダッド等の都市部でも大量のDU(劣化ウラン弾)を使用した。その影響としか考えられない奇形、白血病や癌等の極めて深刻な症例が多発している。因みに、DUから出た核種で長い半減期のものは44億7千万年である。
     更に、米英等イラク戦争で客観的な戦争犯罪を犯した連中は、荒らすだけ荒らし、奪うだけ奪って、キチンとケアもしなかった。その結果、イラク国内に残されたのは、痛みと不可能、混乱と破戒、貧しさと悲惨、不信と恐怖、病と飢え、死の蔓延と絶望であった。このような混乱とカオスからイスラム国は生まれ落ちたのである。即ち、イスラム国を作ったのは、第一にアメリカ、第二にイギリスである。無論、イギリスには、サイクス・ピコ秘密協定の前科もあるのだ。アメリカ、イギリスに、DUというトンデモナイ兵器・弾薬群を使用した戦争犯罪の罪を問うべきである。そして、被災者総てと親族に対し、一人1億ドル(この額は間違いではない、仮に人類の末裔が、44億7千万年後まで残っていたとして、遺伝子破戒による悪影響を半減期だけでも適用する必要があろう。実に控えめな額なのである。実際、寿命を60年で計算すると44億7千万年の間にヒトは7千4百5十万世代を経るから一世代辺りの保証額はたった、1ドル34セント強でしかないのだ)程度の賠償金を支払うべきであろう。それほど被害は酷いのだ。
     
     これらが、我らヒトに負わされた負の性向であるならば、それを現前化させる為に、井保氏は重層化した人間関係を多面的に描くことによって演劇という表象に結実させたのである。


     

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    2015/03/06 04:02

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  • 長文のご意見ありがとうございます。
    いつも見直しては調べたり考えたりしています。
    幼い頃から色々な問題と触れ合うことが多く、物事を客観的に見る癖がついたのかもしれません。
    日本は怖いぐらいに村社会だと思います。たまに実家に帰ると息苦しいです。
    また追記致します。

    2015/04/22 05:39

    井保 三兎さま
     コメント有難うございます。
    返事が遅くなって申し訳ありません。取り敢えず、
    お疲れ様でした、ですね。
    イスラム国については、既に結構書いたのですが、
    もう一つ、日本の在り様についても井保さんは、
    描いたのではないかと思っています。差別や軍が
    偉そうにしている部分については、どんな観客にも
    直ぐ分かるのですが(無論、観客によってその意味する所、理解の
    深さは全く異なりますが)もっと根底的な問題、つまり、
    日本では、個人を中心に置くのか、属する集団を中心に置くのか?
    という問題です。これについても、無論、書いていますので、
    もう少々、追記アップ迄は、時間を頂きたく。
    こちらは、自分が13年追って来た中東問題ほど
    蓄積はないのですが。また。
                        ハンダラ 拝

    2015/03/11 03:38

    ハンダラ様
    ご来場ありがとうございました。
    人質殺害のニュースを眺めながら稽古中の白魔のことを考えておりました。
    それぞれの正義があります。理解出来ないしてもらえない寂しさというのは痛いです。

    2015/03/10 01:09

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