満足度★★★★
小津ワールド
“小津安二郎に捧ぐ”とあるように、映画「東京物語」を彷彿とさせるシーンが多かった。
笠智衆そっくりの話し方と、たっぷりの間、それに現代には不自然なほど丁寧な
「~ですわ」「~ですの」という言い回しが再現され、まさに小津ワールド。
日頃はぞんざいに扱いながら、ひとたび失えば痛切な哀しみに襲われる
家族の普遍性が、“渡鬼”を超上品にしたような日常の中に描かれる。
作者はこれを伝えるために、この作品を作ったのかと思わせるラストが切なく
とても温かな気持ちになる。
亡くなった夫を忘れることを拒否し、それでも次第に忘れていく自分を許せない紀子の姿は
3.11を前に、「死んだ人を忘れること」を鋭く問いかけてくるようだ。
MOGMOSさんの歌とギターが流れたあの場面で、一気に涙腺決壊。
ひとつ疑問なのは、どうみても会話のテンポや古風な言い回しが昭和レトロなのに
なぜ“スカイツリー”のある現代に置き換えなければならなかったのだろう、ということ。
昭和のままで、いつの時代も変わらないんだなと思わせても良かったような気がした。