鬼のぬけがら 公演情報 ナイスコンプレックス「鬼のぬけがら」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    救済
    人は誰でも鬼になる時がある。
    何かひとつ自分のことにとらわれて、他者を顧みなくなる時である。
    父と子と、そのまた子へとつながる命の連鎖の中で、
    鬼のぬけがらもまた受け継がれていく。
    世代の移り変わりと、父が語る「昔ばなし」の重なりが最初わかりづらいが
    テーマは骨太、語り口は繊細である。
    おぼんろの主催、末原拓馬さんとのコラボレーションが成功している。
    この人のファンタジーを地上に降ろして語るセンスが、
    上手く生かされて奥行きが出た。

    ネタバレBOX

    昔、父が幼い成美に聞かせる昔ばなしの中に「鬼のぬけがら」という話があった。
    自分の欲のために、鬼のぬけがらを着込んで悪さし放題の与助は、
    やがて村から孤立しぬけがらが脱げなくなってしまう、という話だ。
    東京でライターをしている成美は、もうすぐ生まれてくる子どものためにも、
    大きな仕事をしなければと焦りを感じている。
    そんな時、3.1.1.震災の被災地アラハマに住む父が、
    がんで余命いくばくもないと聞く。
    母と離婚したり、避難所でもめ事を起こして地域から孤立したり、という父を理解できず
    会えば対立、以来父とは距離を置いてきた成美だが、
    記事のネタになりそうだと、身重の妻に運転させて父に会いに行く。
    そこで様々な人に出会い、父の所業にある深い意図があったことを知る…。

    震災の記事で一躍名を馳せたがその後低迷している成美の焦りが上手く出ている。
    妻にも父にも母にも、思いやりのかけらもなく当り散らすような態度で接する成美は
    もうその時点で十分鬼なのだが、
    震災直後の混乱の中で“誰もが鬼となった瞬間”に出合いたいと
    人の気持ちをえぐるように聞きただす彼は
    その先に“ライターとしての手柄”しか視ていない。

    あんなに批判して憎んでさえいたのに、その父と同じことをしている自分。
    しかも父の行動には深い理由があり、それを誰にも話さずにきた。

    童話「泣いた赤おに」は私が4,5歳の頃読んでボロ泣きした物語である。
    自己犠牲のもと、誰かの孤立を救うという、子ども心には救いのない話で
    「じゃあ、青おにはこれからずっと誤解されたままひとりぽっちなのか」と考えると
    解決策の浮かばない子どもの頭には辛くてならなかった。
    このモチーフが“鬼がら伝説”とうまく絡んで鬼の苦悩と救済が浮かび上がる。

    昔ばなしに出てくる与助のイメージが大きく鮮烈。
    ダークなファンタジーの中に人間の欲と浄化を見せる
    末原拓馬さんの作品に通ずるものがある。
    かつての自分のように鬼と化した息子を、諦めつつ眺める父の寂しい表情が印象的。
    鬼も救われる時が来るという結末は、私もほっと安堵の思いで観た。

    津波の被害者たちの出ハケが気になったことと、
    最後になってまとめを急いだ感じが惜しい気がした。
    あそこまで教科書みたいにまとめなくても良かったのではないか。
    ちょっと政府の復興支援政策PRみたいになってしまったのが残念。


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    2015/01/25 14:21

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