Rolling Job 公演情報 タケウチプロ「Rolling Job」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    小屋を愛する人々
     主演の長井 江里奈さんは、ダンサーである。今作では、脚本、演出も手掛けている。何より、彼女の演劇的なものに関わる態度が良い。小劇場や其処に集まる人々の抱える有象無象が、掬い取れるような視座を持っているからだ。

    ネタバレBOX

     舞台は、前説の場面から始まるが、客席に前説担当がお尻を向けている。通常とはマ逆であるから、観客は、舞台が開演したのだな、と分かる導入で、ここから、引き込まれてしまった。実際、こういう発想の転換というものは、簡単なようで結構難しい。その証拠に、結構、芝居を拝見している自分も初めて観た始まり方だったのだから。設定はこうである。
    32歳で小劇場の受付をやっている女性、ナリコ。独身、彼氏なし。客の入りは良くないのだが、放送禁止用語等を多用して、声援を送ってくれる小屋を愛する常連に対し、支配人は、面白く思っていなかったのに、それは、お客さんが小屋を愛し、出演する芸人や役者を愛しているからだと力説した為、解雇。以降、彼女の流転人生が始まる。
    33歳。彼女の“人間的なもの”を守ろうとする拘り、在るがままを自他共に認めあいたいという希求は、美しく在りたい、という女性の外面からのアプローチに結実する。デパートの服飾コーナーでの販売員である。然し、ここでも、彼女の拘りが、マネージャーの逆鱗に触れた。3万円のワンピースを求めた客は、体の2回りも小さなサイズを選び、脱げなくなってこれを買い求めた。着て来ていた服はユニクロのもの。靴も安物で、とても3万の服に吊りあうものではない。おまけに無理に脱ごうとして、自分の力だけではどうにもならず、ナリコが手伝った末、袖が取れてしまった。これで馘首。
    34歳。一所懸命、修行を積んだナリコが次になったものは、内面からの美を求めてスピリチュアルな占い師。然し、占いで出た結果は、顧客の利害に反した。というのも、観て貰った女には、結婚を勧めたのだが、その相手が占って貰いに来、彼の相談は、結婚しようと思っている女性との結婚後は? と仕事関係の人間関係はどうなるか? の2点。件の女と結婚することにより、負の方向へ人生が曲がってしまう、と出た。職場の人間関係も悪化するという。だが、それを解決する方法が一つだけある、と出た。その方法とは、ナリコとイケ面の彼が結婚することだった。然し、ここでも馘首。
    35歳。終にナリコは、身体に目覚めた。健康食品の販売員である。派遣であるが、適確なリサーチとサジェッションで、自らが他人の役に立ち、喜んで貰えるとあって天職に出会えた、と喜んで仕事に励んでいたが。会社が脱税であげられ倒産。
    36歳。イベントなどで歌手を勤めていたが、ひょんなことで、売り込みようの年齢に10歳も年齢を誤魔化していたことが知れ、馘首。サンサーラとは、サンスクリットで輪廻を表す、などと落ち込んでしまう。そんな輪廻の内側で、人々は苦労に押し潰され、疲れ果てて活気を失っている。然し、彼らが苦しい生活の中でも小屋に足を運ぶのは、劇場が肝臓だからだ、とナリコは言う。ストレスや人生の老廃物を濾過して生きてゆく活力を与えるのだ、と。だが、年齢詐称は許されなかった。
     さて、年齢不詳。トイレの掃除婦になっている。だが、やればやっただけ成果が出るので、彼女はこの仕事に満足している。こんなことが分かったのは、例の3万円ワンピースの客が、入って来たからだ。Mサイズがピッタリになるほど痩せて見違えるほど綺麗になっていた。ナリコは、底辺で他人の汚物を処理しながら、生きていたが、その彼女は何時しかダンサーになっていた。丁度、醜い蛹から目も綾な蝶が生まれるように。彼女は自問する。「ヒトは何の為に踊るの?」 「そんなの知らない。」「私は私の神の為に踊る。南春夫は言ったわ。“お客様は神様です”って。今宵、私は踊るわ。あなたの為に」というが早いか踊り出す。このダンスは見事。照明も背景を暗くしてスポットだけでダンサーを際立たせている。音楽もマッチしている。初めに出て来た放送禁止用語で舞台や小屋への愛情を示す粋もグーだ。凝りに凝った舞台美術を極めに使う贅沢な演出も大層気に入った。
     共演者も役者ではなくピアニストの北園 優氏。彼が生演奏と、様々な相方を演じる。2人ともすばやく着替えなければならないスピーディーな舞台進行なので、大変だろうが、楽しませて頂いた。尚、黒子として、女子大生が活躍したことも付け加えておく。

    0

    2014/12/17 17:07

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大