満足度★★★★
演技の化学反応 見せ方の難しさ
演技に関して非常に興味深い芝居だったといえる。それは4人の俳優がまるで異なった形式の演技をしていることだ。安部公房を演じる佐野史郎の緩急自在な演技。夫人を演じる辻しのぶの熱情的で新劇的な演技。愛人で女優を演じる縄田智子のどことなくアングラの詩情を思わせる、それでいて無機質な現代っ子を感じさせる演技。さらに道化の狂言回しを演じる内田明の妙に直線的で別次元のような演技。これらがまるで方向性の違う演技の質を持っていながら一つの世界を創り上げている。必ずしも調和が取れておらず、内田の道化に関しては客席とのコンタクトを拒否したかのような「ズレ」すらある。しかしこれが互いの相互理解や決定的な亀裂、嫉妬や憎しみを表すのに、結果的に効果を発揮したともいえる。