痕跡 〈あとあと〉 公演情報 KAKUTA「痕跡 〈あとあと〉」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    悲しい事故が各人に与えた様々な影響を淡々と、それでいて各人のその後の「人生」を太く描く秀作かと
    開幕前に読んでたパンフでいきなり「加害者」「被害者」とか配役名出てきたので
    「何かの事故/事件の加害者/被害者間のドロドロとしたものを描くのだろうか?」
    (パンフのイメージ、”痕跡”のイメージから想像)と思いましたが、
    そんな単純なものではなく、

    その事故/事件に関わった人達のその後の悲しみ、救い、逞しさ、したたかさ、
    そういったものを、過剰に盛り上げすぎずにあくまでも淡々と、
    しかしそれでいて「人生」としての笑いや涙を織り交ぜて、

    「最後一体どうなるんだろう?」という事をあくまでも観客に読ませきらない
    (「こう終わって欲しい」という願いや
    「きっとこう終わるんだろう?」という様々な推測を楽しませる)、

    桑原裕子さん流(=KAKUTA流なのでしょうか?)のお芝居、
    北九州芸術劇場の「彼の地」に続き、他の脚本/演出家にはない、
    見事な「味」の出し方と締めくくり方でした。

    まず、桑原裕子さんファンになりますね、この「味」を知ると( ´ー`)

    ネタバレBOX

    10年前、大雨の夜バーのマスターが窓越しに見たのは、
    川へ投身自殺を図ろうとする男、
    夜更けに1人出歩く黄色い雨合羽の少年、
    そして、、、

    車の急ブレーキと衝突音、空を舞い上がり川へと落ちる雨合羽の少年、
    そして(加害者であろうドライバーが)少年の行方を必死で探し続け、
    そして逃げ去る姿。


    あれから10年、亭主の転勤でその地を離れていた少年の母親は
    ガンを患い余命いくばくもない身体で、
    (今も見つからない少年の遺体について)
    「まだ息子は生きているかも知れない」と
    再びその地へ戻り少年を探す事を決心します。


    同じ頃その地のクリーニング工場で働いている中年男性とその恋人の女性、
    そしてもうすぐ20を迎える男性の連れ子の青年、

    青年は「今度の誕生日はすごいプレゼントをあげる!」と言う女性
    (ほぼ母親として慕っている)からの言葉に「弟でも生まれるのだろうか?」と推測します。


    そして、かつてその地でブラック企業に務め精神的にもまいっていた男性、
    それが妻の勧めもあり、名古屋へ引っ越しして回復し会計士になろうと猛勉強、
    身ごもった妻が実家のあるその地へ先に帰ると言い、
    試験が終わったら後から追うから、とホームで別れます。


    ※ この時点で本座組の役者陣の顔をまだちゃんと覚えていない自分は、
      誰が実は誰で、という事がよく分かっていませんでした。
      (分かっている人にはこの時点でもうある程度の
      物語の筋/背景は読めたものと思われます。)


    ・ まず、青山円形劇場の使い方が良かったです。

      当初客席前の円舞台淵(ふち)をうめつくす薄汚れた小道具の数々に、
      「場面転換ごとにここから舞台へセットをあげていく?
      だとしたらとても場面転換の遅い/悪い舞台になってしまう」と想像してしまいましたが、
      これはあの川の汚れ具合(ドブ川に近い?)を表す為の小道具でした。

      物語が進むにつれ、かつて少年が轢かれて落とされたこの川の様子が
      よく分かり、またこの「川」がある意味キーとなってきました。

      そして、他劇団ではあの円形にこだわり過ぎる所も多いのですが、
      あくまでも本劇では全方位観客に囲まれた劇場、として
      どの方向から観てもよく分かる舞台、
      としての使い方に徹していたのが非常に良かったと思います。
      (この形なら、北九州芸術劇場での公演でも、特別な変更はなしで演じられるのかな、
      と思いました。)


    ・ 伏線の貼り方が分かりやすいが使い方がとても良い
      クリーニング店社長が前のチラシに中年男性の働く姿を、
      それを中年男性に止められた社長は
      新しいチラシにその息子の写真を載せて、
      色々な人々が交わる場所となる韓国焼肉店にそれを置きます。

      これがその後
      ・ バーのマスターがかつて見た自殺しようとしていた男性(中年男性)
      ・ そして車に轢かれて死んだものとされていた息子の(成長した)姿(青年)
      として、それぞれの登場人物に見つけられます。

      登場こそ非常に分かりやすい伏線でしたが、
      そのタイミングや使われ方がとても良かったです。
      思ってもいないタイミングで、「おお!ここでそれに触れるのか!」と。

      これも「後々関わってくる」という意味での”痕跡”なのでしょうか。


    ・ ”痕跡”とは、事故に関係したそれぞれが負った傷跡でもあり、
      そしてその後の10年で築いてきた人生の「痕跡(こんせき)」でもあるのでしょうか。

      物語が展開するにつれ、
      単なるひき逃げ事件から、
      実はそれに救われた人がいた事、
      そして、それを忘れる為に逃げ、しかし逃げきれなかった人が存在していた事、
      
      更には物語途中で度々語られる「後々考えると・・・」
      という台詞にもかかっているかと思います。


    そして、
    ・ 会計士を目指す男性こそがかつてのひき逃げ犯人であり、
      10年経っても子供を探す少年の母親の姿に耐え切れず、
      とうとう妻にその事実を話してしまいます。


    ・ 轢かれた少年は川へ落ちた所を死に場所を探していた中年男性に助けられ、
      しかし記憶喪失に陥っていた事などから
      少年はいつしか中年男性の子供として(※戸籍を持たず)育てられる。

      これが借金苦で自殺を考えていた中年男性にも、
      「新たな素性で人生をやり直す」きっかけをあたえる救いでもありました。


    ・ 少年の母親は韓国料理店にて、それまでの情報やクリーニング店のチラシなどから
      「かつてひき逃げされた少年を助けたのが中年男性で
      少年はきっと記憶を失っていてそれを自分の子供として育てた、
      それがこのチラシに写っている青年だ!」と全てを本人達の前で言い当てます。

      しかし、そこでのクリーニング店社長や恋人達の証言からそれは間違いである、
      とさとされ、「全ては自分の妄想にすぎない」と認め、母親は去っていきます。

      ※ この時点、普通のお芝居であれば、推理モノなどのように
        解決編に向かってしまうものと思いましたが、
        全てが判明したからそれで終わり、
        にはしないのがこの脚本のすごい所だと思いました。


    そして、
    ・ 会計士は妻にひき逃げの事実を告白し、
      それを少年の母親に告白しに行くが・・・

    ・ 少年の母親は自分の推測が外れたものとして、
      (それまでに他の家族から勧められたこともあり)
      少年の捜索を打ち切り、少しでも長く生きる為に入院する、と決心し

    と物語は結局、
    「解決ではなく、それぞれがそれぞれの傷跡を抱えたまま生きて行く」
    事になるのかと思いましたが、

    ・ 会計士の妻は亭主の告白を止め、子供を無事出産する。
      しかし「2度とあなたには子供を抱かせない」と言い捨てる。

    ・ 中年男性は青年に「出て行け!」と金を渡して一時的に追い出し、
      自分は10年前の事件からの全てを警察に行って
      自供してくる、という別れ。

    最後、青年とその彼女が「川」沿いを散歩している所へ
    その(本当の)母親がおっかなびっくりに自転車を漕いでやってくる場面、
    転倒しそうな自転車を青年が助け、そのまま去っていく。
    そしてそれを見送り、何かに気づく母親。

    場面暗転して、倒れた自転車がポツンと残された場面。


    結局、
    ・ 母親は青年を追ったのか?
    ・ 青年を見た事で安心した母親は急死してしまったのか?
    ・ 中年男性が警察へ言って自供したとして、
      母親の元へ真実は届いた(間に合った)のか?

    など、最後の最後については述べられないまま物語は終了します。


    物語途中から涙や鼻をすする音などから、
    「泣いている方がいるんだな」とは思いながら
    自分は(泣かせる場面、内容は多くても)
    淡々と進む物語の流れに、
    笑いはしても、実際涙は出ませんでした。

    そして、この締め。


    しかし、この「淡々とした感じ」「人達のしたたかな姿を描く」
    「分かりきった結末ではなく、余韻とでも言うべき何かを残して物語を終わらせる」
    そこが桑原裕子さん脚本/演出の素晴らしい所なのかな、と思います。

    多分、夢で「こう終わったんじゃないかな」とか妄想する事になると思いますが、
    そういう観劇の後の楽しみを残す終わり方こそが桑原さん、そしてKAKUTAさんの持ち味なのかなあ、
    と。


    自分の妄想だと、
    「青年と母親は再会しますが、青年の記憶が戻る訳でもなく
    青年は自分を育ててくれた中年男性の無実を主張し、
    母親もまたそれを良しとして最後を迎える」
    という形でしょうか。

    会計士の人は「ひき逃げ」した相手が生きていた、という意味では
    救われるでしょうが、多分奥さんは「ひき逃げ」の事実を隠した事より
    自分に言って楽になろうとした主人を一生許さないのだろうなあ、と。

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    2014/08/10 18:58

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