ムシノホシ 公演情報 大駱駝艦「ムシノホシ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ミクロの視点から広大なマクロへの広がり
    「外」にも「内」にもあるマクロ。

    大駱駝艦を観はじめて20年以上になると思うが、その間の数々の作品の中にあって、本作『ムシノホシ』は、間違いなく私の中でのベストに入る作品だ。

    ネタバレBOX

    大駱駝艦の公演では、毎回、驚くことがある。

    いつからか、言葉を発したり、台詞を言ったりするようになっていたり、今回のように白塗りではなく、銀色(ゴールデンズの金色ではなく)だったりと、「いつもの」場所に安住することなく、大駱駝艦は、常に変化することに対して貪欲である。

    今回、ムシをテーマということで、ストレートに虫を想像させる姿と動きを見せた。
    そういうストレートな感じもチャレンジではないだろうか。
    誰が観ても「ムシ」なのだ。

    前回はウイルスがテーマであったが、こうしたベーシックなもの、微細なもの、がこの世界を形作っているという意識から、この作品は生まれたのだろう。
    「この世に生まれ入ったことこそ大いなる才能とする」と言い切る大駱駝艦だからこそ、「生」は大切なテーマであり、その「生」は我々だけで成り立っているのではないということを、思い起こし、それを見せることで、観客に感じ取ってほしかったのだと思う。

    「ムシたちは何を考えているのか」と、人間の目線で擬人化してもしょうがない。

    「あるがまま」「その姿、形、動きのまま」を踊ることで、見えて来るものもあろう。
    踊り手の人たちが、それを身体で感じたことは、観客にも伝わる。
    伝わり方はさまざまだ。
    しかし、それでいいのだろう。

    そしてそれは、具体的な「言葉」になるのではなく、「何だかわからないけど、ムシだ」「ムシが生きている」「ムシが死んでいる」という「そのまま」の姿だけで十分なのだろう。
    「言葉」にする必要もない。言葉にするのならば、語ればいいのだから。
    踊り手たちの身体によってトレースされたたムシが、観客の身体に入ってくる瞬間がある。

    今回の「ムシ」という視点は、ミクロであるが、マクロの世界を背中に背負っている。
    マクロを感じさせるのは、村松卓矢さんが芭蕉のような姿で現れ、俳句を詠むところだ。

    具体的な個である「ムシ」という生き物、それは単に「サイズ」だけのことではない、そのミクロが形成する「世界」、さらに侘び寂びに代表される広がる「感覚「感情」、それを俳句の世界で表していたのではないだろうか。俳句も17文字というミクロにマクロを表現しているのだから。「マクロをミクロに閉じ込めている」と言ってもいい。
    具体的なモノから、「感覚」「感情」という、途方もない広がりへ、だ。
    しかし、俳句と同様に、マクロはミクロの外にあるだけではなく、「内」にもあるのだ。

    大駱駝艦のヒエラルキーの頂点には、麿赤兒さんがいる。
    そして、その下にピラミッドのような関係が築かれている。
    舞台の上で、それははっきりとする。

    そうしたヒエラルキーはあっても、マクロの視点からは、ムシの麿赤兒さんはミクロの世界であり、マクロの感情に包まれていく。ヒエラルキーなんて関係ない。世界は感覚のサイズだけ広がっていくのだ。
    それがまた面白い。

    村松卓矢さんが「静」ならば、我妻恵美子さんは「動」である。
    ミクロの「ムシ」の世界を包む「静」と、破壊する「動」である。
    彼らの存在によって、ぐっと広がりと奥行きが見えた。

    最近、村松卓矢さんはこうした設定が多く、もっとアグレッシブに踊ってほしいと思うものの、逆にこうした「立つ」「歩く」だけで、さらに「台詞を言う」というのは、かなりの難度なのではないかとも思っている。「立つ」「歩く」だけで、観客を緊張させるのだから。

    一方の我妻恵美子さんは激しい。単に乱暴なのではなく、美しく調和を破壊していく。

    ムシを含む、この世界の無慈悲さと、儚さが、この2人の対比によって生まれている。

    今回、麿赤兒さんが、激しく動き回り、踊る。
    舞台上にいるシーンも多い。
    じっと、立ち、腕を少し動かすといったような、「渋い」踊りではない。
    一時期は、身体の線が崩れ、動きは大丈夫なのかと、不安に感じたこともあったが、「麿赤兒は健在」であった。
    他の踊り手たちと絡み合って、世界を動かしているような踊りだ。
    それにはシビれた。

    ジェフ・ミルズさんと尺八の土井啓輔さんの音楽も素晴らしく、電気と竹、洋と和の対比から、それが混沌となっていくことで、快感が増幅される。

    大駱駝艦を観はじめて20年以上になると思うが、その間の数々の作品の中にあって、本作『ムシノホシ』は、間違いなく、私の中でのベストに入る。

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    2014/07/23 18:56

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